単語集の善し悪しは、個人のレベルと好み、学習法法にもよるので、何がよい、と断定することは不可能です。だから本屋にはありとあらゆる趣向の単語集が並んでいます。学習者はそこから現状において自分にとってベストだと思うものを選ばないといけません。
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定番英単語集――本屋で見たことあるけど、実際どうなんだ?
単語集との付き合いは、ほとんどの学習者にとって、数ヶ月から数年に及ぶものとなるでしょうから、ここで失敗してはいけないと思ってしまします。こういうこともあって、単語集を選ぶことは、学習者にとってなかなか悩ましいものです。
今回は、世の中に出回っている単語集について、特徴・収録項目・おすすめできる活用の仕方を紹介していきたいと思います。単語に限らず、学習のやり方にルールなどありません。自由です。結果、単語を覚えさえするのなら、どんなやり方でもかまわないとぼくは思っています。そんな自由な学習の参考にしていただけたらと思います。
レベルは、一番ニーズが多いレベル、つまり、CEFRでA2~B2(英検準2~準1級レベル)の学習に使える単語集をセレクトしました。それ以上のレベルの単語集については、また別のところで紹介したいと思います。
個別の単語集に入っていく前に、単語集とはどうやってできているかを簡単に振り返ります。単語集を構成する主な要素は次の通りです。
- 品詞・日本語の意味(当然)
- 発音記号(アクセントと発音記号)
- 類義語対義語
- 派生語
- 例文
- 音声CD・ダウンロード
- 例文未満のフレーズ・コロケーション
- 語源
- その他単語に関する補足情報(イラストや用法の解説など)
- 英語の定義
例えば、obviousという単語なら、次のような説明が並ぶわけです。
obvious
- 【日本語の定義】 [形] 明らかな・明白な
- 【発音記号】ɑ́bviəs
- 【類義語・対義語】≒clear, plain, evident ⇔obscure
- 【派生語】[副] obviously (明らかに)
- 【例文】It was obvious what he will say about that. (彼がそのことについて何というかは明らかだった。)
- 【音声CD】(省略)
- 【コロケーション】an obvious fact(明らかな事実)
- 【語源】ob(~へ)+via(道)→「道にあるような」、「されされている」
- 【その他解説】名詞化して、overlook the obvious(当たり前のことを見落とす)、 say [state the obvious(わかりきったことを言う)といった慣用表現もある。
- 【英語定義】easy to notice or understand
定番単語集レビュー
ここからは、書店に並ぶ定番単語集について、各要素を分析品がら、特徴を考えていこうと思います。

①『キクタン』――聞くだけではもったいない充実感
アルクの『キクタン』シリーズは、英単語集として、根強いファンが多いシリーズです。
『キクタン』 | |
①日本語定義 | ◎ |
②発音記号 | ◎ |
③類義語・対義語 | ◎ |
④派生語 | ○ |
⑤例文 | ○ |
⑥音声 | ○ |
⑦コロケーション | ○ |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
バリエーションも豊富で、難易度順に、Entry<Basic<Advanced<Superと4パターンがあるほか、別シリーズで、英検用『キクタン英検』、熟語版『キクジュク』、個別の例文の代わりに長文を収録した『キクタン・リーディング』、文法にフォーカスした『キク英文法』、外部試験対応の『キクタン・TOEIC』『キクタン・TOEFL』などさまざまなバリエーションがあります。
語彙学習教材としては、アルクの看板商品といってもいいでしょう。カバーを裏返すと、『キクタン』独特のイラストが出てくるところなど、ほかの単語集とは一線を画す面白い工夫だと思います。
(学習とは直接関係ないですが、こういうところから愛着をもつのも、モチベーションアップとして無視できません。)
キクタンの特徴は、「キク」と言っているだけあって、リズムに乗せたCDの音声です。《英語→日本語→英語》と一定のリズムに乗せながら読まれるので、「キクだけ」学習ができるように設計された単語集として、出た当初は画期的なものでした。
そして、単語集の中身も非常に充実しています。単語の意味も多く詳しく、類義語対義語・派生語も充実しています。コロケーションは各単語に2つずつあり、それとは別に例文もすべての単語についています。アルクがもつノウハウを詰め込んだ、とても力の入った単語集だと思います。
短所としては、内容が詳しい分、収録語数がどうしても少なくなっています。巻によって違いますが、見開き2ページ⑧単語、1冊の見出し語数は1200語ぐらいです。単語集としては少ない方でしょう。ただ、見出し語の選定はしっかりなされているので、しっかり学習すると、英語の運用能力を確実に上げてくれると思います。
ぼくの印象としては、中級~上級を目指す人は第2巻にあたる『Advanced』までしっかり学習をしたらかなり実力がつくと思います。Advancedは6000語レベルとなっていますが、語彙のレベルは結構高めで、英検で言うと準1級レベル・大学入試だと難関大学レベルになります。英語上級者への登竜門として、このレベルの語彙をしっかり使えるようになることはとても重要です。
最上レベルの『Super』になると12000語レベルとされていて、一つ下のAdvanced(6000語レベル)より一気にレベルが上がります。ただ、それでも収録見出し語数は1200語程度なので、学習範囲の網羅性は一気に下がってしまいます。
さすがに、6000語レベルから12000語レベルの間にある6000単語を、1200語の見出し語だけで学習することは無理があります。このため、Superは、シリーズのほかの巻より万人向けではないかなと思います。
いずれにしても、じっくり取り組むと、とても実用的な英語が身につく単語集となっていると思います。
②『パス単』――英検専用? いえいえ…
英検の単語集、といえば、真っ先に思いつくのはやっぱり『パス単』ではないでしょうか。英検に出た単語を分析し、独自の「出る順」に単語を配列したスタイルは、試験用の単語集としては定番のものですが、定番というのはやっぱり安心感があります。
『パス単』(準1級以上) | |
①日本語定義 | ○ |
②発音記号 | ◎ |
③類義語・対義語 | ◎ |
④派生語 | ○ |
⑤例文 | ○ |
⑥音声 | ◎ |
⑦コロケーション | × |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
バリエーションとしては、通常版の他に、長文の中に単語を収録した、『文で覚える単熟語」というバージョンもあります。
英検受験者の多くが手にする単語集ですが、ただ、このシリーズ、『2級』以下のものと『準1級』以上のものは、内容が大きく異なります。
正直、『2級』以下のシリーズはあまり単語集としておすすめできるものではありません。大きな理由は、例文が収録されていないからです。そのため、『2級以下』の『パス単』は、単語と日本語の定義をただ単に並べた、語彙リストという感じが否めません。類義語対義語の収録も非常に少ないです。その代わり、『2級』版には、巻末の方に、英検だけでなく実生活にも役立つ「会話表現」が収録されています。
例文がない『2級』以前の版に対して、『1級』『1級』版は、非常に魅力的な単語集になっています。すべての単語に例文が収録されていて、あまり気づかない特徴かもしれませんが、類義語対義語(特に類義語)がとても充実しています。ほとんどすべての単語のすべての意味に類義語が付け加えられていて、3つ以上の類義語が載っている単語も少なくありません。
類義語に目を通すことで、読解問題では本文をうまく言い換えた選択肢に対応できるようになるでしょうし、作文においても「語彙」の観点の点数を上げるためにも、同じ意味を表す様々な単語を目にしておくことはよいことです。
実は、ぼくは、中級レベルの人にいい単語集ありますか、と聞かれると、『パス単準1級』と答えるようにしています。『パス単』は見開きの左ページに「見出し語」「発音記号」「意味」「類義語」「派生語」、右ページに「例文」というオーソドックスな構成で、まさにシンプル・イズ・ベストを体現したような単語集です。その分、学習もとてもしやすいですし、飽きることもありません。
『準1級』に掲載されている単語は、英検受験者だけでなく、中級から上級へステップアップするためにはどれも重要な単語ばかりなので、すべての学習者に自信を持っておすすめできる単語集だと思っています。レベルは高いですが、『パス単1級』も上級者にはとてもおすすめです。
『パス単』のもう一つの強力なメリットは、アプリが充実していることです。音声はCDではなく、旺文社のアプリ『英語の友』で聞くことができます。音声は見出し語だけにしたり、見出し語と例文にしたり、スピードを選べたりと、様々な学習に対応しています。これがかなり使いやすい。
また『パス単』を収録したアプリに、フラッシュカード系暗記アプリ『英単語mikan』が、あります。このアプリはうまく使えば、『パス単』の最強のパートナーとなってくれます。このアプリは、英語学習者の間では、知っている人も結構いると思われる、人気アプリです。
単語の「意味」だけを覚えるだけなら、究極なまでに学習時間を短縮してくれるような工夫がなされています。フラッシュカードアプリの最大の魅力は、覚えていない単語・うろ覚えの単語だけを、繰り返し学習するように設計されていることです。(代表例で言うと「Anki」というアプリがあります。)『パス単』×『mikan』は単語集とアプリの組み合わせとして、これ以上ないというくらい、強力なタッグではないでしょうか。
③『ターゲット』――おしゃれな手帳かと思ったわ
『英単語ターゲット』は『パス単』と同じく旺文社が出している単語集で、レイアウトや内容は『パス単準1級・1級』ととてもよく似ています。シンプルな構成で特に受験界の定番単語集と言ってもいいでしょう。
『英単語ターゲット』 | |
①日本語定義 | ○ |
②発音記号 | ◎ |
③類義語・対義語 | ○ |
④派生語 | ○ |
⑤例文 | ○ |
⑥音声 | ◎ |
⑦コロケーション | × |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
『パス単』と違う点は、例文の多くを実際に大学入試で出題された文からとってきているという点です。ほとんどの例文には小さく、「○○大」という記述があり、実際に問題で出る形をイメージしながら学習できます。
アプリ版が『ターゲットの友』という名で出ていますが、無料でありながら非常に使いやすいアプリだという言う印象です。単語を読むスピードや単語間のポーズの時間まで自分好みに設定できますし、確認テストまでついています。無料のアプリとしては、ほかには例を見ないぐらいの充実度で、学習を大きく手助けしてくれます。
高校生がよく使っている印象がありますが、カバーを外したり、カバーを裏返したりすると、とってもスタイリッシュな新書の外見になり、一般の学習者でも持っていて気恥ずかしくないようになっています。
『ターゲット』はこのように見た目にもこだわっているようで、おしゃれなカバーのバージョンなんてのも出ています。学習とは関係ないですが、形から入ることでモチベーションが上がるというタイプの人にはおすすめです。
↑通常版の『ターゲット1900』(表紙に動物のイラストがあるやつ)と内容は同じですが、カバーが黒を基調としたスタイリッシュな感じになってます。他にも白を基調にしたバージョンもあり、大人が鞄に入れていてもまったく違和感ないようなデザインになっています。
④『速読英単語』――文は速読、語義はじっくり読もう
Z会の定番単語集と言えば、『速読英単語』です。単語を学んで、その単語を収録した長文を収録するというスタイルは、この単語集とともに生まれました。初版が1992年ということで、単語集としてはロングセラーの商品と言えます。
『速読英単語』 | |
①日本語定義 | ◎ |
②発音記号 | ◎ |
③類義語・対義語 | ◎ |
④派生語 | ◎ |
⑤例文 | ○ |
⑥音声 | △ |
⑦コロケーション | ○ |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
バリエーションは、中学生版、基礎編、必修編、上級編に加えて、熟語版があります。単語と長文を別々の冊子に収録した分冊版もあります。CDは各巻別売りです。
今でこそ、《単語+長文》というレイアウトの単語集は当たり前で、『キクタン』『パス単』『ターゲット』などの定番単語集にも長文を収録した『キクタン・リーディング』『英検・文で覚える単熟語』『ターゲット・英文で覚える』などのバリエーションがありますが、その先駆者としての『速単』の役割はとても大きかったといえます。
この『速単』、最大の特徴は、長文を含んでいるという点ですが、単語の説明も非常に丁寧で、有益な情報をしっかり収録してくれています。コロケーションがほとんどの単語に追加でついていますし、関連語(ほとんどが発音記号付き)も充実しています。注意すべき意味・用法・連語も記載されており、学習者目線に立った工夫がされていて、使いやすいです。
この形式の宿命として、それぞれの単語に例文はついていませんが、それでも重要単語には個別の例文も長文と別でついています。さすがに全単語に個別例文をつけることはできていません。紙面を考えたら当然のことだと思いますが、ここが好みの分かれるところではないかと思います。つまり、例文がついてない単語の例文を参照するためには、わざわざ長い長文のなかからその単語の部分を読まないといけないわけです。なかなか小回りのきいた学習にはなりにくいというのが欠点でしょう。
そういうこともあり、ぼくは、あまりこの手の単語集を単体で使ったという経験はありません。そのぶん、メインの単語集のサブとして使うというのもおすすめです。単語を長文中で見る機会を増やすことができますし、音声を聞けばリスニング対策になります。
普通の単語集では、覚えた単語にすべて出会うためには、相当の量の英文を読まないといけないと思いますが、『速単』では、すべての単語が何らかの形で長文中に出てくるので、単語との出会いは約束されています。そういったところもメリットではないでしょうか。
またこの単語集は、『パス単』同様、「英単語mikan」というアプリと連携しています。パス単同様、うまく使うと最強の暗記ツールとなるアプリなので、是非ダウンロードをおすすめします。
「mikan」アプリは、性質上、単語の1つめの「意味」だけを覚えることに完全に特化したツールで、用法などのその他の情報は一切遮断しています。その分、意味だけは覚えるスピードをずっと短縮してくれる工夫がなされたアプリです。単語の意味だけはアプリで覚えて、使い方や読解の方法を本で覚えるというやり方は、うまくはまれば英語力を飛躍的にアップしてくれるのではないかと思います。
Z会の速単特設サイトには単語のフラッシュカードサービスや英文の映像講義、確認テストがあります。残念ながら、このサービスは2019年3月に終了するようなので、利用したい方は、今がチャンスです。また、ネットには長文のポイントを解説した「読解アシスト」というファイルが無料で使えるようになっており、学習者目線に立ってくれるZ会ならではのありがたいサービスだなと思います。
⑤『シス単』――大学入試界では圧倒的人気
大学入試用の単語集として根強い人気を誇る単語集が、『システム英単語』通称、『シス単』でです。電車の中で高校生が読んでいる単語集としては、『ターゲット』と並んで最もよく見かける単語集ではないでしょうか。
『システム英単語』 | |
①日本語定義 | ○ |
②発音記号 | ◎ |
③類義語・対義語 | △ |
④派生語 | ○ |
⑤例文 | × |
⑥音声 | △ |
⑦コロケーション | ○ |
⑧語源 | △ |
⑨その他解説 | ○ |
⑩英語定義 | × |
バリエーションは、中学版、通常版、Basic版、小型のポケット版、医学部受験用medicalなどがあります。「Basic」には、「通常版」の「第4章」「第3章」は収録されず、その分はじめに一章を付け加えて、中学レベルのより基本的な単語を収録しています。つまり、「通常版」の1章・2章・5章(多義語の章)は、「Basic」にも全く同じ内容が収録されています。CDは別売りです。今のところ主な連動アプリはありません。
『シス単』の大きな特徴は3つです。1つめは、収録単語の選定についてです。一般的な単語集と違って、『シス単』は、大学入試に出た単語を、出た頻度順に4つの章に分けて配列しています。
大学入試の長文問題をデータベースとしているため、特に後半の章の収録語はアカデミックな語彙が多くなっています。これは長所であると同時に、短所でもあります。つまり、入試の長文問題に出てくるような単語はカバーしているけど、日常的に使う単語のカバー率はその分下がってしまいます。
特徴の2つめは、例文を廃し、「ミニマムフレーズ」という短めのフレーズで一番よく使われる用法を覚えるように工夫している点です。表紙カバーで「無駄な例文はもういらない」と謳っており、フレーズで覚えることで、意味と最も代表的な用法を一気に覚えることができるようになっています。
3つめの特徴は「通常版」の第5章に多義語を独立した章立てで収録している点です。基本的な単語だけど、いくつかの意味があるという単語をまとめて収録しています。ほかの章は単語1つにフレーズ1つだけですが、この多義語の章だけ1つの意味につき1つのフレーズがついています。
つまり、意味が多い単語には、いくつもの「ミニマムフレーズ」が搭載されています。多義語は試験でもよく問われるところですし、なかなかちゃんと学習することもないので、この第5章を学習することはとても価値のあることだと思います。
入試用の定番単語集であるのは確かです。「入試ではこの意味!」というデータを強調してくるので、受験用としてはとても効率のいい学習ができると思います。実際に入試問題を解いていると、難関大学だろうと、確かに『シス単』の単語はよく出てきます。大学入試改革が目の前に迫っていますが、「入試用」の単語集の代表である『シス単』がどのような改訂をされていくのか、とても興味があるところです。
⑥『DUO』――使いこなせばかなり強力、ただ挫折率高し
単語集の中でも、ちょっと変わり種、それでありながら、根強いファンをもつのが『DUO』です。DUOのコンセプトは、一つの例文に見出し語を複数収録している点です。560個の例文の中に重要単語1572語、熟語997個を収録しています。例文を覚えることで、効率よく多くの単語を身につけることができるようになっています。
『DUO』 | |
①日本語定義 | ◎ |
②発音記号 | ○ |
③類義語・対義語 | ◎ |
④派生語 | ◎ |
⑤例文 | ○ |
⑥音声 | ○ |
⑦コロケーション | ○ |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
バリエーションは、通常版『DUO 3.0』と、より重要な単語を厳選した『DUO Select』があります。後者の方が基本単語を中心に収録しているので難易度は低めです。もう一つ違ったコンセプトのバージョンに『DUO Elements』というものがあります(後述)。
少ない例文で、多くの単語を覚えることができるので、例文暗記教材としてもいいですし、普通の単語集として活用してもいいでしょう。単語の解説は単語集の中ではかなり詳しい方で、特に類義語・対義語がこれでもかというぐらい掲載されています。各派生語にもひとつひとつ類義語・対義語が複数記載されており、例文だけでなく、内容にもしっかり力が入れられていることがうかがわれます。
収録語のレベルは、高校上級レベルといったところで、英検準1級レベルにも一部かかってくるぐらいの語彙を収録しています。簡略版の「Duo Select」は基本語を中心に収録しており、少しレベルは下がります。
例文だけでなく、収録している項目が非常に充実しているので、逆にそれがごちゃごちゃしていて使いづらいという方もいるようです。また、例文は一つ一つの単語にほしいという方もいるようですので、長所と短所はそれぞれですね。
長所を挙げるなら、例文を覚えると、効率よく用法を含めて多くの単語を身につけることができるということでしょうか。逆に言うと、例文を覚える作業をしないなら、「DUO」を使うメリットはあまりないと思います。
(ただ、『DUO』を使っていて、例文をすべて使いこなせるまで覚えるというところまで到達するには地道な努力が必要です。多くの人はそれより先に挫折してしまいます…。)
シリーズとして、「Duo Elements」という前置詞・副詞をつかった語彙を収録したバージョンもあります。趣向は本家「Duo」とは全く異なり、一つひとつの熟語・イディオムについて、イラストで意味を解説しているという点です。
意味が似たようなイディオムが並べられており、意味やニュアンスの区別を学習するのに向いています。例文などは収録されていないので、本家のような使い方はできないことに注意してください。イラストは人目で分かるように工夫されているので、結構見ていても楽しい表現集になっています。
⑦『究極の英単語』――究極のその先へ
アルクの『究極の英単語』シリーズは、SVLという重要度順語彙リストの単語を、各レベルごとに収録した単語集です。全4巻で、各巻に3000語ずつ、全巻でSVLの12000語をすべて収録しています。
『究極の英単語』 | |
①日本語定義 | ○ |
②発音記号 | ○ |
③類義語・対義語 | × |
④派生語 | × |
⑤例文 | △ |
⑥音声 | ○ |
⑦コロケーション | △ |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
この単語集は、単体で見たらあまり優れた単語集だとはいえないと思います。例文はおよそ半分の語彙にしかついてませんし、類義語や派生語などの関連語はほとんど全く載っていません。
この単語集の特異な点は、アルクが出しているSVLというレベル別の単語リストに入っている12000語を、全4冊で漏れも重複もなくすべて収録していることです。
SVLリストは1000語ずつ、全12レベルに英単語を分類しており、『究極の英単語』では、各巻3000語ずつで、各巻の収録語彙は以下の通りです。
vol1 SVL1~3の3000語
vol2 SVL4~6の3000語
vol3 SVL7~9の3000語
vol4 SVL10~12の3000語
SVLはコーパス分析に基づいた語彙レベルのリストとして様々な場面で引用される、信頼度の高いものです。SVL1の最初の単語は “a”, “about” といった単語ですが、SVL10以上となると、英検1級レベル以上の語彙レベルとなり、科学や人文学のアカデミックな専門語彙、小説やニュース雑誌で見かける難単語が多く収録されています。
まさにSVLの語彙レベルが、その人の語彙レベル、ひいてはその人の英語力を表しているともいえるかもしれません。誰しもはじめは、vol1からはじまります。最上レベルのvol12にたどり着くまでの道のりは、確実に英語の上級者への長い長い旅路をそのまま表しているはずです。ぼくも結果的には12年ぐらいかかってここまでたどり着きました。それぐらいの道のりです。
内容としては、各レベルの半分の単語は、「POWER SENTENCE」という形で、一つの例文に平均すると大体4単語程度の見出し語を埋め込んでいます。形としては、一つの例文にいくつもの見出し語を含めているという点で、その形式の代名詞『DUO』と同じような形式になっています。
例文は、日常的に見聞きするような内容になっていることが多いです。各レベル1000語のうち、動詞はすべてこの「POWER SENTENCE」に含まれています。名詞形容詞は、半分以上は例文に入っておらず、各レベルの後半に語彙リストのような形で分野別に並んでいます。(短いフレーズはついています。)
この単語集、特に最上レベルのvol4は、このレベルの単語集はそもそも選択肢がほかにほとんどないので貴重な存在なのですが、それ以下のレベル(学習者が最も多いレベルともいえます)なら、内容がもっと充実した単語集があるので、なかなか選択肢入ることはないようです。
SVLリストの12000語を完全収録した唯一無二の単語集ではあるのですが、なかなか使いやすいとはいえないのも事実です。まず欠点として真っ先に思い浮かぶのは、類義語や派生語などの関連語が一切収録されていないことです。
12000語を重複なく収録しているため、学習が進んでいったら、12000語に含まれてさえいればどこかで出会うことになるので、いちいち関連語として収録されていないのでしょう。しかし、英単語とは表面的だろうと、もっと奥深いところであろうと、いろいろな単語と関わり合って存在しているものです。完全にあらゆることばから独立した単語など存在しません。そう考えると、関連語を収録していないというのは、コンセプトが素晴らしいだけに、とても残念です。
ぼくの希望をいってもどうしようもないのですが、もしこの単語集のすべての語に例文がついていて、すべての語に関連語が収録されていて、その上で、すべての関連語にSVLのレベル何に当たる語なのかという表記があるなら(このレベル表記がほかにない最大の強みなのですから)、それはまさしく、文字通り「究極の英単語」といえる単語集になるのに、と思ってなりません。アルクさん、「究極の」改訂版、待ってます。
ちなみにこの単語集は、CDは全巻分の音声を収録したものが、別売りで販売されています。また、各巻ごとにアプリ版も有料で販売されています。アプリ版はさらに課金すると、冊子では例文がついていない語にも例文を見ることができます。
アプリ版は、単語テストや、単語だけを一気に音読する「まとめて聴く」モードなどもあり、結構使えます。本とは別にお金がかかりますが、購入して損はない内容となっています。こちらも「英単語mikan」みたいなフラッシュカードの機能があれば最高なのですが…。
このなんだか詰めが甘い感じも、この単語集の特徴かな、と思っています。ちなみに、ぼくは、vol4を学習したときは、すべての単語について、類義語辞典を引いて類義語を書き加えたりして学習しました。そうやって愛着ある「究極の」単語集を自分でつくっていくというのも、『究極の英単語』シリーズの醍醐味なのかもしれません。
(でも、やっぱり最初からついていてほしい。)
⑧『英単語ピーナッツ』――他で挫折しても、こいつが救ってくれる
『英単語ピーナッツほどおいしいものはない』という名前の単語集があります。通称『ピー単』です。『ピータン』ではありません、『ピー単』です。憎めない単語集の代名詞です。
『英単語ピーナッツほどおいしいものはない』 | |
①日本語定義 | ○ |
②発音記号 | ○ |
③類義語・対義語 | × |
④派生語 | × |
⑤例文 | × |
⑥音声 | ○ |
⑦コロケーション | ○ |
⑧語源 | × |
⑨その他解説 | × |
⑩英語定義 | × |
バリエーションは基礎1000語レベル、銅メダルコース、銀メダルコース、金メダルコースなどがあります。
『ピー単』、今回あげた中で一番個性的な単語集です。決して万人受けするものではないと思います。ほかの単語集と比べても、収録内容はかなり偏っています。例文もないし、派生語などの関連語もなし。収録されているのは、単語をつかった短いフレーズだけです。ほかの単語集を使っている人からすると、これってそもそも単語集なの?というところで疑問を持ってしまうかもしれません。
そんな単語集ですが、ぼくが大好きな単語集のひとつです。単語を覚えるために便利であるかは置いておいて、なんだか憎めない工夫がたくさんあります。
この単語集の最大の特徴は、単語を会話や作文で使うこと、つまりアウトプットに特化した単語集であるということです。この方針から、短いフレーズに単語を詰め込んで、日本語を見て英語が出てくるように練習できるようなレイアウトに工夫されています。単語集と言うよりは、瞬間英作文、短文フレーズバージョンといっていいかもしれません。
使い方は、なにより、音読しましょう。音読して、音読して、音読しましょう。CDも効率よく、英語だけが収録されています。それを聞いて音読、聞かずとも音読、最終的にはすらすらその単語が出てくるまで音読しましょう。
レベルはたくさんありますが、アウトプットに主眼を置いているので、英語を見たら意味は分かるけど、会話ではぱっと出てこないというものが多いものを選びましょう。銅メダルコースの単語でもアウトプットで使える発信語彙としてはかなりレベルが高いものが収録されています。英検の準1級や1級の面接試験でも十分役に立つようなフレーズ満載です。1級合格者でもなかなか会話ではぱっと出てこないような語彙も多いです。金メダルコースまで発信語彙として身につけることができたら話せることの幅は相当広がると思います。
ピーナッツを食べるように、おなかいっぱいを目指して、ひたすら音読しましょう。今日も音読、明日も音読です。この単語集の好きなところはたくさんあるのですが、各章が終わるごとに、単語学習に関する著者のコラムや学習者の体験談などが収録されていて、その文章がとても考えさせるもので、かつ学習をうまく励ましてくれるところです。
単語学習で、どの単語集をつかっても、だめだった、途中で挫折したという方は、英語学習を諦めてしまう前に、最後の手段としてこの単語集に手を伸ばしてほしいと思います。単語集全体が、「なんとか私を食べて消化して、吸収して」と呼びかけてくるような独特の優しさをもった『ピー単』は語彙学習の最後のよりどころとしてきっとあなたを支えてくれるはずです。
もっともっと多くの日本人に使ってほしい単語集です。ちょっと変わった見た目ですが、だまされたと思って、音読してみてください。ピーナッツの殻を手でパリッと割って、実を口に放り込むような小気味いい快感とともに英単語をポリポリ身につけていきましょう。
まとめ――単語集に感謝し、友とせよ。
以上、書店に並ぶ定番単語集について、収録内容・特徴・使い方などを考えてきました。
各単語集の収録内容を改めてまとめると、次のようにあります。

単語集にどれがいい、どれが悪いというものは、基本的にありません。使い方、使う人、使用目的によってどれがいいかはそれぞれですし、好みも大きいです。自分が一番使いやすいものを見つけて、じっくり学習することが一番大切だとおもいます。
いろんな単語集を見てみることで、ひとつの語彙を多角的に見てみることも必要です。
当たり前のように思ってしまうのですが、単語集があるということは、それだけで本当にありがたいことです。もし単語集がなければ、一つ一つの単語を、辞書を引いたりしながら覚えていかないといけません。英語を学習していると感じることがあまりないのですが、英語以外の外国語を勉強しているとこのことを痛感すると思います。
世界の言語の中で、本屋に単語集が並んでいる言語なんて、ほんの一握りです。単語集があるということが、それ自体ありがたいことだと思うと、語彙学習のスタイルも変わるかもしれません。すべての単語集に込められた、作り手の強い思いをくみ取ることも語学に必要な要素ではないでしょうか。
ことばを知る。
世界はちょっとだけ広がる。そんな学習ができたらいいと思います。
ケンブリッジ英検FCEを受験する場合に英単語ピーナツはどのレベルまでやれば良いでしょうか?(全部やるに越したことはないのですが…)