大学入試

大学入試の英語ってどうなの――東大・京大の入試問題に何を思うか

大学入試の英語は我が国において、英語学習の方向を定める点において、非常に大きな影響力を持つ試験です。英語力がもっとも成長するであろう3年間のゴールに存在するのが入試であるので当然です。今回は、東大京大の英語について、特徴や最新事情を振り返りたいと思います。同時に、受験生以外の一般学習者が大学入試問題から学べることについても考えてみましょう。

東大英語――外部試験とも張り合えそう

東大英語の特徴

東大の英語は、標準的な英語を、実際に「使って」相手の考えを理解し、自分の考えを伝えることができるかを判断する、非常に優れた試験です

試験時間120分に対して、答えるべき問題は多岐にわたり、外部民間試験であるTOEFLやIELTSといった試験の問題をこなしていくように素早く問題を処理していかなければなりません。

また、大学入試の常として、日本語の要約や和訳問題で、読み取った内容を適切な日本語で正確に記述する力も必要になります。世界に通用する知識人として当然知っておくべき英語の基礎から応用力までを様々な問題形式で問いかける東大英語は、まさに日本の大学入試の最高峰であり、最高品質の問題であるといえます。

かといって、問題が極めて難しいかというとそうでもなく、時間の制約があることを考えると確かに難易度の高い試験ですが、よく言われるように、一つ一つの問題は大学入試のなかでも決して難しい方ではありません。

また、答えるのが極端に困難であるような難問奇問もありません。しかし、一方で、テクニックだけで簡単に乗り切れるような単純な問題もありません。

東大英語はその点で、すべての英語学習者が一度は取り組んでみる価値がある問題であると思います。日本を代表する大学の、日本を代表する頭脳の持ち主が考えた英語の問題を一度も見たことがないという英語学習者は、ちょっともったいない気がします。

東大英語だけに特化した過去問集は駿台から出版されています。青本は、各年度の試験を年度の順位並べています。

赤本からも東大英語に特化した版は出ています。こちらはジャンル別に配列されています。

最新の問題

それでは、2018年の東大英語の問題ラインナップを見てみましょう。

大問1 長文読解

(A)日本語要約

(B)長文の空所補充・英語要約

 

70~80字の記述

選択式・15~20語の記述

大問2 英作文

(A)自由英作文

(B)和文英訳

 

40~60語の記述

80字程度の日本語文の英訳

大問3 リスニング 選択式
大問4 読解・語法・文法の精読問題

(A)長文中の語句整序

(B)長文中の下線部和訳

 

7~8語の並び替え

1行から3行の英文の和訳

大問5 小説の読解総合問題 選択式・一部記述

以上が最新の東大入試の形式で、例年と大幅な変更はありませんでした。特異な点としては、英作文の(B)で20年ぶりに和文英訳が復活したことです。

英語4技能などの話がある前から、東大英語では、大学入試の主流であった和文英訳を廃し、考えを述べたり、特定の状況を説明させたりする自由記述の英作文に完全に移行していました。

2018年現在では、大学入試のスタンダードはむしろ自由英作文になりつつあります。そんななかで東大が、あえて「時代遅れ」ともとられかねない和文英訳のスタイルに立ち返ったというのは注目に値することだと思います

自由記述もいいけど、安易で即物的な実用主義に走るのではなく、しっかりとした揺るぎない表現力が必要なのであるというメッセージのように思えてなりません。

確かな表現力をつけるためには、思いついたことを書くだけでなく、他人の知恵ある言葉を誠実に表現できるようになる練習をしておくことも必要であるというのは、スピーキングだ!会話だ!という世の中の風潮への一つの警鐘なのかもしれません。

そういうこともあり、この東大の和文英訳復活は、ぼくとしては2018年大学入試の英語のなかでも最も注目すべきことでした。

その他の問題は、東大らしさが十分に出た良問だと思います。

自由英作文はシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』からの引用についての考えを述べるものであったり、本格的な小説の読解問題があったりと、ほかの大学ではあまり見かけないような趣向の問題です。

東大英語のすゝめ

東大の問題は、英語について考えさせることで、その背景にある「ことば」の世界について思いをはせることができるような優れた問題が並んでいると思います。

東大の語句整序は、文を読んでいく中で、英語のリズムが体に染みついているかを聞いてくるような問題で、決して私立大学の入試にあるような特定の文法事項・構文を知っているかを問うような問題ではありません。

形式は同じでも、東大が何を大切にしているか、ということを考えるには、いいかもしれません。文も短く、短時間でやることができるので、東大の問題を垣間見たい英語中級者以上の方は、この問題だけでもちょっとのぞいてみることをおすすめします

いずれにせよ、問題の流れとして、最初に少し固めの論説文を要約させるところからスタートし、でも要約やざっと読むことだけが大切でなく、しっかり細部を味わう大切さも教えてくれるのが東大の問題の優れた点だと思います。

優れた英語の試験とは、英語学習について考えるときに、何らかのインスピレーションを与えてくれる問題であるとぼくは思っています。そう考えると、東大の英語はまさにそういった問題ではないかと思うのです。問題は無料で公開されているので、利用しない手はありあません。(代々木ゼミナールの入試過去問のページ

京都大学――真っ先に批判されるやつや

京大英語の特徴

京大の英語は、特異です。いろんな意味で。

まず目につくのは、読むべき英文の少なさ。読解問題は大問2つで合わせて3~4ページぐらい。120分の英語の試験としては、入試だろうが英検だろうがTOEFL・IELTSだろうが、ほかのどの試験でもまず例を見ないほどの圧倒的な語数の少なさです。

たとえば、センター試験の英語などは、80分で本文や選択肢も含めて10ページ分ぐらいの英語を読まないといけません。関東の最高学府・東大の英語ではリスニングを除く90分で、9ページぐらいの英文を読まないといけないことことを考えると、京大の120分で3~4ページという英文量の極端な少なさが分かるでしょう

京大は日本の大学入試英語の象徴とでもいうべき、英文和訳と和文英訳の2種類しか出さないという超絶オーソドックスなスタイルを貫いていました。問題文もシンプルで、

大問1 次の英文を読んで、下線部(1)~(3)を和訳せよ。

大問2 次の英文を読んで、下線部(1)~(3)を和訳せよ。

大問3 次の日本語(1),(2)を英語に直せ。

みたいな、味も素っ気もないある意味恐ろしい試験でした。そしてその見た目の威圧感というか風格に負けないぐらい、英文自体の難易度や解答をつくる難易度が恐ろしいぐらいに高い試験でした。

ある参考書には、「京大の問題は、うわべだけの表面的なテクニックでは通用しない。英語力のみならず優れた日本語の表現力を試すには、この形式が最適なのである。」みたいなことが書いてありました。

ぼくなんかは、不遜なものでして、いやあ、大学の先生、問題作るのめんどくさいだけなんじゃない?なんて疑念を持ったりもしてしまいます。いや、そんなことないだろうと思いつつも、でもやっぱり、そんなことなくもないのでは…、なんて心の隅で思ったりもしてしまうのです。

大学の先生なんて、できたら自分の研究をしたいわけで、問題作成なんてできたらやりたくないでしょうからね。

英語の問題つくらなあかん。
めんどうやな~。
ちょうどいま読んどる論文でも題材にするか。
こことここに下線でも引いといて、これでよし。
完成や。
採点面倒やろけどほかの人がやるしええか。
さ、研究の続き続き。

なんて思ってるんじゃないかと考えてしまいます。どうなんでしょう。まったく不遜な推論ですね。でも、こんな考えが許される大学があるとしたら、「自由の学風」を謳う京大こそまさにそんな大学なのではないかとも思うのです。

一つだけ言えることがあるとしたら、大学の先生にとって、入試というのは面倒なイベントであることは間違いないでしょうから。

そして間違いなく採点は大変だと思います。英語に限らず、京大の入試は全科目記述量が多いです。とりあえずシンプルな問題と、でっかい解答欄は与えるから、あとは自由に自分の力を表現しなさいや、とでも言われているかのようです。

そんな京大の英語は、和訳と英訳だけということもあり、長年、「こんなことばっかりやってるから日本人は英語が話せるようにならないんだ」という批判の矢面に真っ先に立たされてきました。

和訳と英訳の技術だけ入試で仕込んだところで英語は話せるようにならないというのは批判としてはまったく的を射たものだと思いますし、無理からぬことだと思います。ぼく自身、やはりこのスタイルの英語の試験にはちょっと有用性について疑問を抱いてしまうところがあります。

深い知識と確かな表現力は必要なのですが、その「実用性」の幅が、一般の学習者には限られているからです。合格者の中でも圧倒的言語センスを持つ人間を引き出すには向いているのかもしれませんが、一般的な語学の教材としてはなかなか使いづらいところがあるのは事実だと思います。

そんな京大ですが、数年前から、ついに長大で難解な和文英訳を半分廃止し、自由英作文を導入しました。「積ん読」とは何かという2人の人物の会話にふさわしい文を補うという問題でしたが、長年変化のなかった京大の問題傾向が変わったことがまず衝撃的でした。

しかし、ぼくは、そのときの「積ん読」の問題は大学入試史上に残る名作ではないかと思います。確かな知識を備えつつ、なんかしら「オモロイ」考えを持つ人間を求める京大らしさが十分に出た問題でした。長年の慣習を打ち破りつつ、しかしあるべきスタイルは崩さず、新たな価値を発信したその変更の勇気がすごいと思いました。

以来、読解の問題でも和文英訳の割合が少しずつ説明問題や、それまでなかった選択式の空欄の語句補充問題に変わりつつあります。ここ3年ぐらいは、読解は、英文和訳とその他が半々の割合で出題されています。

京大英語について知りたいなら、まずは赤本に当たるのがベストです。「25年」は読解と英作文をわけて配列しています。

最新の問題

それでは、京大の最新の問題を簡単に振り返ってみましょう。

大問1 長文読解 1 下線部説明問題。

2 下線部和訳

3 空欄の語句補充

大問2 長文読解 1 下線部説明問題

2 下線部和訳

3 下線部和訳

大問3 英作文 和文英訳(一部自由記述)
大問4 英作文 自由英作文(会話文の台詞補充)

2018年の問題はそれまでの数年と同じで、読解は和訳半分、説明問題2題、空欄補充1題でした。空欄補充は選択式の客観問題でした。難易度は極端に高かったりはせず、英検準1級などで語彙や熟語を学習したことがある人にとってはなかなか楽しめる問題なのではないかと思います。

2018年の問題では英作文が和文英訳1題、自由英作文1題とここ数年と同じ形式でした。しかし特質すべきは、和文英訳の文章の途中が空欄になっており、その部分を自分で考えて作文するという形式に変化しました。

これは大学入試としては、ほかにほとんど例を見ないような新しい形式です。京大もこのご時世で、試験のあり方について試行錯誤している様子がうかがえたと思います。

しかし、自由英作文の方は、台詞も短くなり、特に自由に記述できる余地が減ってしまった印象を受けます。大手予備校の分析では、書く内容が限定された文簡単になったと指摘されていましたが、書く内容を減点してしまったというのは、「京大らしさ」というものは失われてしまったのではないかと思います。これは「ちょっと自由」英作文だったな…なんて印象でした。

京大英語のすゝめ

京大らしさがなくなったと嘆く人はいるようですが、ここ数年の傾向は、これはおもしろい変化なのではないでしょうか。2018年の入試には作文問題において、和文英訳のなかにも自由記述の要素が入り、さらに解答の自由度が高まったという点が注目すべきところだと思います。

京大の問題は、大学入試の中でも英検やIELTSなどの「実用」的な英語の試験とは全く違った対策が必要な試験の代表だと思います。圧倒的な日本語の記述量と、かたくななまでに「日本語らしい」日本語の英訳が中心であるからです。

しかしやはり、京大の問題は、一方で、英検やIELTSで高スコアをとるような人にとっても、それなりに「オモロイ」問題であることは間違いないと思いますし、日本の英語学習界の現代点と、見失ってはいけない先人の知恵を大切に保った問題であると思います。英文も設問も、難易度自体は大学入試最高峰ではありますが、一度チャレンジしてみても面白いと思います。

まとめ――知らずにいるのはもったいない

日本を代表する最高学府の英語の問題は、やっぱり英語得意の人や、英語学習に興味があるという方なら、受験生でなくても1度は取り組んでみてほしい問題です。

たぶん、どちらも、やってみて、結構思うところがたくさんある問題だと思います。肯定だろうが否定だろうが、有益だろうが、無益だろうが、いろんな問題をみて何かしらそれまで思っていなかったことを考えるきっかけにでもなればいいと思います。そして、最高学府の入試問題は、そういったきっかけになってくれそうな問題ばかりです。

入試はどうなっていくのか、日本人の英語はどうなっていくのか。おそらく、大学の先生も高校の先生も、ぼくのようなしがない1人の学習者も、手探りで道を探している時代だからこそ、いろいろな問題に取り組んで考えを深める機会は必要なのではないでしょうか。

東大京大の英語を扱った参考書でおすすめは、次の2冊です。

鬼塚幹彦さんの『「京大」英作文のすべて」は和文英訳の本で、かなりレベルは高いですが、一般の方があらためて英語でものを表現するということを考えるときに示唆を与えてくれるはずです。(ほとんどの高校生には難しすぎます。京大受験生だとしても。)

宮崎尊先生の『東大英語総講義』は、英語という言語について考えるという意味で、これ以上の本はないぐらい、充実した本です。東大受験者だけでなく、英語ができるようになりたい高校生・大学生・社会人すべての人に一度は手に取ってもらいたい本です。

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  1. […] 以前、東大京大の入試問題を題材に、これらの試験から学べることを考えた記事を書きました。(こちら「大学入試の英語ってどうなの――東大京大の入試問題に何を学ぶか」) […]

  2. […] 大学入試の英語ってどうなの? 東大京大の入試問題に何を思うか […]

  3. 坊主 より:

    リスニング教材として東大英語を用いたいのですが、赤本と青本どちらが適しておりますかね?当方、受験生ではございませんがよろしくお願いいたします。

    • kazetori より:

      コメントありがとうございます。

      リスニング教材として過去問を使用されるなら、リスニングだけを集めた過去問集が得策だと思います。
      通常の赤本・青本には他の教科も入っていますが、それが不要でしたらリスニングだけ15年分収録した赤本・青本ですね。

      内容は、過去問なのでどちらもそれほど大差はないでしょう。私は青本は正直使ったことがないのですが、音声とスクリプトが収録されていたら十分という場合は、どちらもあまり変わらないと思います。
      あとはレイアウトなどで好みの方を選ぶという感じですかね。

      リスニングだけを集めた青本は、2017年入試から過去15年を収録したものが出ています。
      東大入試紹介15年英語リスニング

      同タイプの赤本は、同じく2017年からですが、こちらは過去20年分収録しています。
      東大の英語リスニング20カ年

      つまり、青本なら15年分、赤本なら20年分リスニングができるということですね。
      これらはリスニング特化なので、筆記は収録されていないことにご注意ください。

      いずれも教材としてはとても優れたものだと思います。

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