ケンブリッジ英検は日本ではあまり知られていませんが、IELTSと並んで世界ではもっとも広く認知されている英語試験です。試験時間は長く、テクニックだけでは対応できない良問が4技能すべてに渡って次から次に登場します。今回は、その試験の難易度を英検・IELTS比較しつつ、概要をまとめようと思います。
Contents
比較の基準――とりあえず土俵をそろえる
比較するにはとりあえず同じ土俵に立たせないといけないので、難易度をそろえたいと思います。
今回は欧州の共通言語参照枠であるCEFRにおけるC1レベルの試験で比べようと思います。
CEFRのC1レベルといえば…
英検1級
TOEFL 95~120
IELTS 7.0-8.0
TOEFL(LR&WS) 1845-1990
ケンブリッジ英検CAE(Advanced)
参考:資格・検定試験CEFRとの対照表(英語四技能試験情報サイト)
C1レベルはこのとおり、レベル別の試験では英検1級、ケンブリッジ英検CAEとなります。スコア型のIELTSにはレベルはありませんが、IELTSでバンドスコア7.0-8.0あたりとなっています。
一般に、C1レベルというのは上級レベルとされていて、その言語がほとんど不自由なくあらゆる場面で使え、複雑な状況にも対応できるレベルとされています。
「上級者」の試験としてわかりやすいよう、今回はケンブリッジ英検CAE(以下CAE)と日本の英検1級(以下、英検1級)とIELTS(アカデミック)をつかって試験自体の難易度を比較します。そのなかで、日本ではあまり知られていないケンブリッジ英検とはどんな試験なのか考えていきましょう。
ケンブリッジ英検はCEFRのB2レベル以上には次の3つのレベルがあります。
B2…FCE(First)→英検準1級レベル
C1…CAE(Advanced)→英検1級レベル
C2…CPE(Proficiency)
これら3つの試験は、レベルこそ違いますが、問題の構成は基本的にほとんど同じです。今回は真ん中のCAEと英検1級を比較対象にしますが、FCEもCPEも同じような問題ですので、これからまとめる問題についての説明はすべてに当てはまると思ってください。
各セクションの内容と難易度比較
CAEについて記述した日本語の情報はほとんどないので、なかなか探すのに苦労するかもしれません。
以下は分野別に、ケンブリッジ英検CAEの問題構成と難易度について、私なりにより有名な英検1級とIELTS(アカデミック)と比較しながら記述していきたいと思います。
1.Reading and use of English
このセクションは、合計で全体の40%を占めます。
難易度:IELTS<英検1級<<CAE
はっきり言って、CAEのリーディングは難しいです。難しい上に、90分という制限時間内でかなり多くの英語を読まなければなりませんし、かなり細かい読解が必要になります。
CAEの問題は問題文を読むのだけだったら、英検1級と同じぐらいかそれよりも読みやすいぐらいなのですが、読解の問題に答えるのはCAEの方がずっと難しいです。本文のかなり細かい点をついてくる問題が多く、答えを見ても、なぜその答えになるのか本当によくよく読まないとピンとこない問題も多いです。
感覚としてはCAEのリーディングはセンター試験の現代文を英語でやっているようなものな気がします。選択肢は一見どれも正解に見えますし、解答を見ても、なんで?なんて思ってしまうことしばしあります。
これは違うだろうと真っ先に切り捨てた選択肢が実は正解だったりと、なかなかCAEのリーディングは一筋縄にはいきません。問題のバリエーションも多く、付け刃の対策ではまったく歯が立たないと思います。
他の試験との比較では、CAEはどの試験よりもハードルが高いと思います。IELTS(アカデミック)や英検1級よりも、正答率は低くなると思います。私もIELTSや英検1級のリーディングは9割ぐらいは毎回得点できるのですが、CAEはせいぜい8割ぐらい、悪いときは7割ぐらいの正答率になります。
ただ、語彙問題だけは、英検1級の方がレベルは高いです。語彙問題に関しては、英検1級を超える英語試験はまあありません。しかしそれは、逆に言うと、単語さえ覚えれば、英検1級のリーディングセクションで高得点をとることは実はそれほど難しくありません。
しかし、CAEは英語全体の総合力を問うという感じが強く、なかなか単語さえ覚えれば点が上がると言うものでもありません。対策がなかなかしにくいという点で、本当の英語力を見極めてくれる試験であると言えるかもしれません。
合格ラインは、CAEは6割で、英検1級は7割程度の正答率となっているので、CAEの方が問題は難しいのも納得できるのですが、それでも英検1級で9割ぐらいとって、ある程度自信がある状態で、CAEのリーディングをはじめてやってみたら結構点の取れなさに衝撃を受けるかもしれません。
目標を見失わないという点でも、英検1級に合格した後はCAEに取り組んでみるのはいいと思います。
リーディングセクションについて詳しくはこちら。
【ケンブリッジ英検FCE/CAE/CPE】分野別解説――Reading and Use of English
2.Listening
このセクションは全体の20%を占めます。
難易度:IELTS=英検1級<<CAE
ケンブリッジ英検のリスニングは、どの英文も2回ずつ読まれます。英検やIELTSなど多くのリスニング試験では英文は1回だけしか読まれないことを考えると、ケンブリッジ英検のリスニングは親切であるように思うかもしれません。
しかし、2回読まれるにも関わらず、ケンブリッジ英検のリスニングは、リーディング同様、CAEは同レベルの英語試験と比べて難しいです。特に日本人は一番苦しむところかもしれません。
CAEに限らず、ケンブリッジ英検のリスニングは全体的に同レベルの他の試験と比べて難しいと感じる日本人が多いようです。その理由は次の2つです。
・スピードが何より速い。
・カジュアルな言い回しが多い。
・聞き取れても設問に答えるのが難しい。
こういった事情もあって、ケンブリッジ英検のリスニングはより「ナチュラル」な英語を扱っているという見方もできるかもしれません。
日本の英検のリスニングは、読まれる内容は高尚な内容が多いもものの、きれいに雑音を取り除いた音声で読まれます。そのため、聞き取ること自体に苦労することはそれほどありません。
一方でケンブリッジ英検のリスニングは、ネイティブが日常会話や街角で普段話すような言い回しで英文が読まれます。そのため、言っていることは中学生でも知っているような単語なのに聞き取れないということが起きます。特に普段どちらかというと「きれいな」英語に触れることが多い日本の学習者は、こういう「ナチュラルさ」に苦しむことが結構あるのです。
IELTSのリスニングも、ケンブリッジ英検に比べたら、まだ「きれいな」英文であることが多いような気がします。IELTSは英文が1回だけしか読まれない上、PART4ではディクテーション(書き取り)の要素があります。
そのため、IELTSでは、読まれる英文はそれほど早くなく、所々むしろかなりゆっくりになって読んでくれる印象があります。IELTSのリスニングは日本人でも十分高得点をとることが可能です。むしろ、多くの日本人にとってはIELTSのリスニングは得点源だと思います。
ケンブリッジ英検でもPART2でディクテーションがあるのですが、こちらは書き取りだろうが、容赦ないスピードで読まれます。読まれる分量もかなり多いです。
ケンブリッジ英検CAEのリスニングを難しくしているもう一つの特徴は、設問の難しさです。CAEの設問はリーディング同様、読まれる英文のかなり細かいところをついてきたり、読まれた内容全体から示唆されていることをついてきたりするため、正答を選ぶのが難しくなっています。
聞き取れたとしても、正解にピンとこなかったり、スクリプトを読んでもみてもどれが答えか分からなかったりします。
これも他の試験にはあまりない難しさだと思います。英検やIELTSのリスニングは聞き取れさえすれば、正解の選択肢を選ぶのに迷うことはほぼありません。CAEはそうはいかないのです。聞き取る力とともに、深い英文理解力も必要なのです。
リスニングセクションについて詳しくはこちら。
【ケンブリッジ英検CAE/CPE】リスニング(一番おすすめ)内容とポイント
3.Writing
このセクションは全体の20%を占めます。
難易度:英検1級=CAE<IELTS
ケンブリッジ英検のライティングは、リーディング・リスニングに比べたら、取り組みやすい分野です。CAEのライティングの特徴は次の通りです。
・日常に即したテーマ。
・500語程度と、記述量が多い。
・90分と試験時間が長い。
CAEのライティングは、制限時間90分で220-260語の英文を2つ書き上げます。一つの問題に45分を書けることができることを考えると、他の試験と比べてもかなり時間に余裕があるライティングだと思います。
テーマは手紙・書籍や映画のレビュー・意見文・エッセイなど、日常生活に即したものが多いです。社会問題や世の中の出来事に関するテーマについて書く英検やIELTSと比べても、特別な背景知識も必要ない分、書きやすいと思います。
ケンブリッジ英検のライティングは、背景知識を必要としない分、それなりに想像力を働かせて書かないといけません。特に手紙やレビューなど、架空の人物を読者に想定して自分で状況や話を構築して書いていく必要があります。
そこを割り切って、自分が書きやすい内容で自分の語彙力や文章力を遺憾なく発揮できるような場面を自分で設定すれば、高得点をとるのはそれほど難しいことではありません。
英検1級のライティングはかなり高尚な社会問題を扱うため、日頃からニュースを見ていたり、対策本を読み込んで背景知識をそれなりに頭に入れておかないと、英語力はあってもそもそも書くことができないこともあります。日本語でもなんて答えよう、みたいな問題もあります。
この間の2018年第2回英検1級の問題なんて、「人文学の現代社会における有用性」みたいなものがテーマになっていたぐらいです。
IELTS(アカデミック)のライティングは、アカデミックライティングのルールに則って、正確に様々な語彙や構文を使って書かないといけないため、独学では一番点数を上げるのが難しい分野だと言われています。
一方で、CAEのライティングはそれほど細かいことにこだわりすぎなくても、英文をしっかり書けていれば、それなりに低評価はされないようになっています。
ライティングセクションについて詳しくはこちら。
【ケンブリッジ英検FCE/CAE】ライティング(想像力必要)内容とポイント
4.Speaking
このセクションは全体の20%を占めます。
難易度:CAE<IELTS<英検1級
スピーキングもケンブリッジ英検はどちらかというと取り組みやすい分野です。
日本の英検を難しくしている要因は、スピーキングの題材が、それなりに背景知識が要求されるものであるということです。英検のスピーキングには社会・政治・科学などの分野における深い教養がないと、日本語でも答えるのに苦労するようなものが多いです。そういったテーマについて2分間のスピーチを英検では即興で作り上げなければなりません。
一方で、ケンブリッジ英検のスピーキングは、ライティング同様、特別な背景知識は必要ありません。提示される写真やテーマについて、その場で話を述べる必要がありますが、内容は日常的なものです。
その分ケンブリッジ英検のスピーキングは、4つのパートがあって、様々な形式でスピーキング力が問われることになります。
1人の試験官と2人の受験者とのやりとりであるという点も特異な点です。その分、試験官とのやりとりだけでなく、もう1人の受験者との意見交換や議論もあるわけです。
英検1級は試験官2×受験者1でまさに「面接」と言った感じでスピーチの後は、両者から次から次に質問が飛んできます。IELTSのスピーキングでは、試験官1×受験者1の対面式です。TOEFLはコンピュータに向かって話す形式です。
ケンブリッジ英検の、試験官1×受験者2という形式は、他の英語試験にはない特異な形となります。ちなみに、CEFRの試験としては珍しいわけでもなく、ドイツ語のCEFR試験であるGoethe Zertifikatでも同様に試験官1×受験者2の試験です。
どの形式がいいかは個人差があると思いますが、ケンブリッジ英検の方は、見ず知らずの他人と意見をその場ですりあわせて、限られた時間で一つの結論にたどり着くといったことも必要になってきます。自分一人が話しすぎても、話さなすぎてもいけないので、そういった難しさはあるということは覚えておいた方がいいでしょう。
スピーキングセクションについて詳しくはこちら。
【ケンブリッジ英検FCE/CAE】スピーキング(コミュ力必要)内容とポイント
普及しない事情と学習法を考える
ケンブリッジ英検は、私たちがなじみのある試験ではないかもしれませんが、英語力を正確に判定してくれる非常に高品質の試験です。
お金がかかってくると、試験の人気と試験の質は我が国では必ずしも比例しません。対策のしやすさも、試験の人気を決める重要な点です。
TOEICや英検はそれ自体は、素晴らしい試験だとは思いますが、分野も限られていて、得点アップはそれほどコツをつかめば難しくありません。
英検は準1級以上は語彙問題の比重が非常に大きい分、言い換えれば、「単語さえ覚えれば点数が上がる」という側面もあります。実際、単語さえ覚えれば1級でもかなり簡単に点数は上がります。(もちろん、覚えるのが簡単ではないということではありますが。)
一方で、ケンブリッジ英検は本当に普段からどれだけ英語を読んでいるか、話しているか、話す練習をしているか、表現について練習しているかといった基礎体力が徹底的に問われます。これをやれば点が上がるという方法も設定しにくいです。
その上、お金もかかるので日本ではあまり普及してないのでしょう。受験地も極めて少ないです。
それでもCEFRの本家本元の試験であるケンブリッジ英検から学ぶことは多いはずです。英語に対する視野を広げると言う意味で、少なくとも、問題だけでもやってみることをおすすめします。問題はネット上でも見ることはできますし、過去問はAmazonでも手に入ります。
過去問題だけでなく、専用の問題集もおすすめです。Cambridge University Pressの教材は『マーフィー英文法』などが有名ですが、非常に高品質の問題が多く、独学でも使える優れたテキストになります。
まとめ――まずはリスニングだけでもやってみよう
学ぶことの多い試験ですが、一番日本人が衝撃を受けるであろう試験はリスニングです。ケンブリッジ英検のリスニングは「本物」に近い英語が容赦なく吹き込まれていて、その感じを体験するにはいちばん手っ取り早いでしょう。
まずはリスニングだけでも、そして普段の学習について見直してみることができたら今のところはそれで十分かもしれません。
2回読まれても全然聞き取れない、というリスニングは、ぼく自身、最初は自信を打ち砕かれるものでした。正直、10回読まれてもケンブリッジ英検のリスニングは英検よりも難しいのではないかと思うときもあります。
各セクションの詳しい内容については、関連記事をお読みください。
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