英検1級の語彙問題は、多くの人にとって1次試験の最大のハードルです。それ専用の単語帳も出ています。難単語が目白押しの1級語彙問題ですが、今回は、「1級用」と銘打たれていない、いわば、「非公式」の単語本を紹介します。難単語を、楽しみながらより深く身につけることができるような個性的な本たちです。
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まずは、「公式」教材を確認
1級用の単語本で、一番多くの方が使っているのは、文句なしで『パス単1級』でしょう。1級合格に一番必要な教材だと思います。
パス単は、1級に必要な語彙を過去問から抽出しているので、効率よく試験に出る単語を覚えることができます。レベル的には10000語から15000語ぐらいの単語を収録している感じです。
そのレベルの単語の中でも、どちらかというと、ニュースや論文調の文書に出てきそうな、格調高い、高尚な香りのする単語が多いのも特徴です。1級試験自体が、どちらかというと口語表現やカジュアルな言い回しよりは、報道や新聞のコラムなどで見聞きするような文を多く題材にしているからでしょう。
パス単以外に使っている人が多い印象の教材は、『究極の英単語Vol 4 超上級の3000語』です。こちらは、カジュアルで日常的な語彙から、アカデミックな専門用語まで幅広く収録しており、パス単に収録されていない単語も、この本を覚えておけばほぼ漏れはないでしょう。
この2冊を覚えておけば、1級の語彙問題はほとんど正解できると思います。世の中にはもっと恐ろしい『英検1級英単語大特訓』という植田一三先生の本もありますが、これはもう超人向けです。私のような凡人には使いこなせませんでした。
それでは以下では、1級向け「非公式」単語本について紹介します。合格に必要な知識を身につける本と言うよりは、語彙学習をより深く楽しくしてくれる本です。
『ネイティブスピーカーの単語力』
まず紹介するのは、『ネイティヴスピーカーの単語力 3形容詞の感覚』(大西泰斗/ポール・マクベイ)(研究社)です。
特徴
現在、ラジオ英会話などで人気の大西先生の本です。大西泰斗・ポールマクベイのコンビは他にも『1億人の英文法』『ハートで感じる英文法』や新しい『Factbook』『Wordsense』などでとても人気の執筆者です。
『ネイティブスピーカーの単語力』は、初版は2003年なので、新しい本ではありませんが、読んでいて、新しい発見が満載の、おもしろい本です。
この本のコンセプトは、形容詞を、基本的で当たり前のものから、(日本人にとっては)マニアックなものまで、ネイティブの感覚ではどのように使われているかを解説するというものです。
形式的には、類語使い分けの単語集みたいな感じですが、その説明や例文が実用としっかり結びついていて、かつ上級者でもあまり意識しないような基本語の情報が満載で、読んでいてとてもためになります。
大西・ポールのコンビは、一度講演会を聞きに言ったことがあるのですが、そのとき、単語はただ意味を覚えるだけではなく、その単語をhumanizeしないと使えないと、ポールさんが力説しておられました。
意味を暗記するだけではなく、単語のニュアンス・気持ちを「感じて」はじめて正しい表現ができるというのは、機械的にとにかく量を覚えようとしていた自分にとってはありがたいお言葉でした。確かに、単語集で意味を覚えたからと言って、なかなか使えません。基本的な単語であってもです。
おすすめ使い方
この本は、一般の学習者に向けて書かれているので、英検1級とは関係ない文脈で使われることが多いと思います。この本を1級に向けて学習している人におすすめする理由は二つです。
・1級語彙をより深く理解
まず、この本は、似たような意味のまとまりで、単語を紹介しています。たとえば、「おいしい」という語のグループなら、次の単語を収録しています。
「おいしい」
tasty, delicious, succulent, luscious, scrumptious, yummy, palatable
deliciousより後ろの単語は、準1級をもっていてもほとんど知らないような、所謂「1級レベル」の単語たちです。
palatableと言う単語は、『パス単1級』には載っていますが、単語帳では,単語とその意味と例文1つしか掲載されていません。その意味が、実際にはどのようなニュアンスで使われるのか、この『ネイティブスピーカーの単語力』で確認することができます。

1級用の語彙は、なかなか出会う頻度もなく、「深く」学ぶことができないのですが、こういう単語について解説した本書はありがたい存在です。
・基本語の「気持ち」を再確認
この本のもう一つおすすめな点は、基本語のもつニュアンス・「気持ち」を改めてしっかりと学習できる点です。
先の「おいしい」の例でも分かるように、各グループの最初の方の単語は、誰でも知っているような基本的な単語です。しかし、それらの単語のニュアンスや使い分けになると、結構上級者でも曖昧なものがあると思います。
私も、bigとlargeの違いなんて、1級を持ってるにもかかわらず、恥ずかしながらこれほどしっかりは把握していませんでした。
そして、「暗い」ということを表すときには、ほぼ100%でdarkを使っていました。著者曰く、他にもdull, dim, murky, gloomyなどニュアンスの語があるが、それらを使えないのは、「単語の本当の『顔』を」知らないからだそうです。
基本語でも、本当のニュアンスを改めて身につけるとこで、「いつでもどこでも同じ単語」からはじめて解放され、的確に単語を使い分けることができるようになるとのこと。納得です。
こういった知識は、作文や面接ではもちろんのこと、それ以外の場面でももっと普通に英語を「使う」ときにとても役に立つのに、学校や普通の教材ではあまり学習しないものです。
それ故、この本はそういった盲点に気づけるという点でも、ありがたい存在です。
例文は、カジュアルな言い回しが多いので、試験のスピーキングではあまり使えないような文が多いですが、私はこの例文を音読して単語の「気持ち」に寄り添うように練習しました。
それだけでちょっとだけ英語の世界が豊かになった気がしますよ。
『英語マニアなら知っておくべき500の英単語』
2冊目に紹介するのは、かなり新しい本です。『英語マニアなら知っておくべき500の英単語』というタイトルで、私なんかは、もうそのタイトルだけ見て買ってしまいました。
特徴
著者はイギリス人で、この本は翻訳本です。ネイティブがネイティヴ向けに書いた単語本なので、私たちにとっては、「知っておきたい500の日本語」みたいなコンセプトの本だと思われます。著者による「本書の使い方」には次のように記されています。
本書では、高校までの学校教育ではあまり教わらない500の英単語が取り上げられています。もちろん用件を端的にやりとりするだけなら学校英語で十分かもしれませんが、本書を使えば、それ以上に広がる英単語の世界の魅力を味わい、知識を増やしていただくことができます。ある単語から思いがけない派生の仕方をして生まれた単語や、神話や思想と関わりながら発展してきた単語、「そんな使い方があるのか」と感心する単語が盛りだくさんです。
『英語マニアなら知っておくべき500の英単語』(キャロライン・タガート著/大工原彩・國方賢 訳)(すばる舎リンケージ)
ネイティヴ向けにこう書かれた本ですので、日本人にはまあなじみのない単語がたくさんです。1級をもっている私でも、最初の方から単語を見ていって、
adroit (知ってる)
aspiration (知ってる)
assiduous (知ってる)
avuncular (見たこともね~)
という感じで語が並んでいます。1級を持ってる人でも全体の3分の1ぐらいは知らない、もしくは見たことすらない単語だと思います。
気軽に使おう
この本は、真面目な学習書というよりは、読んで楽しむ本ですので、それで十分だと思います。1級向け単語集に載っているような語も多いので、単語の意味や背景など、より深く知ることで無味乾燥な暗記作業をちょっとだけ助けてくれるような、そのぐらいの本です。
どちらかというとジョーク本なので、あまり真剣になりすぎず、楽しんで読んだら良いとお見ます。イギリス的ユーモアは理解できたらおもしろいのですが、日本人の私には理解できないものも多いです。それでもまあいいや、ぐらい思って読んでいます。
そんな気軽な本ですが、時々、学習者にも役立つような耳より情報がポロッとでてきたりするので、なかなか油断なりません。例えば、authoritarianの項で、authoritativeと混同しないようという記述がありましたが、私なんかは「はっ」とするような指摘でした。どちらも1級試験に出てもおかしくないような語彙です。
全体的にはジョーク・蘊蓄本なので、「へ~」と思いながら読んで、ときどき、「おお、覚えとこう」ということに出会えたらおもしろいと思います。
まとめ 難単語ともっと友達に
英検1級の語彙対策は、やったことがない人は、なんとなく、めちゃくちゃ大変な道のりとイメージしている人も多いでしょうが、何事もやってみることです。
やってみたら案外…みたいなことは語学だけでなくいろんな場面であるものです。
単語帳を手に取って覚えて、そしたらどうであれ、英語の世界は広がるものです。
今回紹介した本は、その語彙学習をさらに「おもしろく」してくれるような気軽な本たちです。無味乾燥な暗記作業に飽きたら、ぱらぱらと見てみてください。「へ~」ぐらい思って読んだら十分だとおもいます。
1級向けの専用教材は、準1級までに比べたら一気に数が減りますが、1級レベルの人は、工夫次第でいろいろな非公式教材を教材として「使える」という特権があります。要は工夫次第です。1級レベルの人なら、少なからず努力と失敗の経験がある人だと思います。私なんか失敗だらけでたどり着きました。
だから、1級を目指す人は、普通の人よりは工夫の仕方を知っている人が多いと思います。普通の学習をちょっとだけ「おもしろく」できたら、語学はもっとはかどるでしょう。そしてそうして身につけた言語で世界を見たら、世界は少しだけ、おもしろくなるんじゃないかな~なんて思っています。
単語ともっと友達になろう。友達20000人できるかな。
終わり。