英検1級の語彙問題を攻略するための教材は、限られていますが、そのなかで最も恐ろしい本があります。植田一三先生の『英検1級英単語大特訓』という本です。
Contents
どんな本か
この本は、語彙を扱った本ですが、単語帳という感じではありません。単語をとにかくとにかくひたすら1冊の本にぶち込んだという感じの本で、「英検1級」と銘打った語彙本の中では、圧倒的な語数の英単語を含んでいます。
まあ正直、ここにある単語をすべて覚えなくても1級は合格できます。そしてぼく自身、この本に出てくる表現をすべて暗記しているわけではありません。
著者の植田一三さんは、書店の、語彙を扱った本や、英検対策、通訳案内士対策の本が置いてあるコーナーではわりとよく見かける名前だと思います。この方のプロフィールには、「『超人的』努力を果たす…」といった記述があります。まあ、超人というか、達人というか、そういう感じの方です。
この『英検1級英単語大特訓』という本ですが、まさに達人になりたい人向けという感じで、あまり凡人が使うことを想定されていないのがよく難点に挙げられるようです。amazonのレビューも植田先生の本は結構評価が割れていますね。
たとえば、膨大な語を収録している一方で、巻末に索引がなかったり、多くの語は似た意味でまとめた単語が載っているだけで、発音記号も語義も載っていなかったり、誤植が割と多かったり、とか…。学習しにくいという声もよく聞く気がしますし、それはそれで的外れな指摘ではないとぼくも思います。
すべては、この本があまりに凡人の域を超越しているが故の問題点ではないでしょうか。このレベルの本を校正できる人なんて、果たしてどれぐらいいるのだろうか、という気もしますし…。
この本は、「一応」30日ですべて終わるように、各ユニットに「第○日」みたいな設定がされているのですが、第1日で設定されているのは、4ユニット分です。そこに出てくる単語をすべて足すと、なんと、たったの、292語でした。(笑)
1日で292語を覚える人を想定されている本が、ぼくみたいな凡人に使いこなせなくても、なかなか、無理からぬことです。
それでも、究極の語彙本として、やはりこの本はなにやらぼくを惹きつけるところがあるのも、一方で揺るぎない事実なのです。
この本を使って挫折したエピソードを含む記事はこちら。
わたしの英単語学習(失敗の)履歴書
ユニット構成

この本がどのようなコーナー(?他に良い表現が思い浮かばなかった)から成り立っているか、まずは簡単にまとめましょう。
①難易度順類語表
各ユニットは、同じような意味の単語群を扱っています。先頭には、語彙レベルの水準に基づいた表が掲載されていて、一目で同じような意味の単語における難易度を判断できるようになっています。
この表は、発音記号も、それぞれの語の語義など何もついていない、ただ単語を載せただけの表です。なかなかこれだけで学習するのは苦しいところがあるので、参照用で全部覚えなくてもいいかもしれません。全部覚えるのはかなり大変です。
おそらく重要な単語と思われるものは太字になっています。
②例文
その後に続くのが、「驚異のスーパー語彙力加速的UP例文」です。
もうタイトルからしてかなり変態(超人)っぽさが出ています。このコーナーでは、先ほどの表にあった語彙を、できるだけ多くぶち込んだ驚異的な例文が1つ紹介されます。1つの文に難単語をこれでもかというぐらい収録させているので、ぼくなんかは、ちょっと読んだだけで目眩が起きるような文もあります。最初の「驚異のスーパー語彙力加速的UP例文」を紹介しておきます。
A ravishing blonde with an engaging personality and a seductive voice offered tempting food and exquisite wine with a tantalizing smell.
(魅力的な人柄と色っぽい声を持つ非常に美しい金髪の美女は、食欲をかき立てる匂いのするおいしそうな食事と極上のワインを出した。)出典:『英検1級英単語大特訓」植田一三(ペレ出版)
目眩が起きるのはぼくだけではなかったようで、wordでこの英文の日本語訳を打っていたら、wordから《修飾語の連続》という注意書きが出てきました。(笑)
ぼくだけでなく、文書入力ソフトも目眩を起こしていたようです。
③語義・コロケーション
お次のコーナーは「コロケーションとニュアンスで「発信型」語彙力UP」というものです。
おそらくこの部分が一番「単語集」らしい部分だと思います。表に出てきた語彙のなかから、重要と思われるものがピックアップされ、詳しい語義が説明されています。
それぞれの語義にはコロケーションとして結びつく単語が3つほどつけられているので、音読して単語を使えるようになることを想定しているところです。
例えば次のように記述されています。
imposing (figure, building, statue)
堂々とした、人目を引く「人物・建物・銅像など」
ただ、これがつけられているのが、最初の表で出てきた単語の一部だけです。(最小の表で太字になっていた語という訳ではない)。他の語は、割と自分で辞書を引いて意味を確認するしかないという感じです。
④類語解説
通常のユニットを締めくくるのが、類語のニュアンスの違いを解説したコーナーです。その名も、「ライティング&スピーキング力UP! 類語使い分けマスター」です。最初の表に出てきた単語から、いくつかがピックアップされて、ニュアンスや使用場面の違いが主に解説されています。
ただし、お決まりのようですが、最初の表にあったすべての単語が解説してもらえる訳ではありません。ここに載っていない語の意味やニュアンスを知りたい時は、自分で辞書を引くしかありません。
また、ここまでのコーナーすべてを通して、発音記号やアクセントの表示はないので、発音を知りたくなったら、すべての語について辞書を引くしかありません。ここはなかなかしんどいところです。
その他のコーナーたち
通常のユニットはこれでおしまいですが、他にも2ユニットに1回ぐらいのペースで、追加コーナーがあります。
追加コーナー① 語根の力で1級語彙光速マスター
このコーナーでは、語源をヒントに、同じ語根から生まれた語をまとめて覚えられるようになっています。
追加コーナー② その他の重要類語グループ
ここでは、各ユニットに入りきらなかった語を、類義語でまとめて紹介されています。1つの類義語ループにつき、単語数は多くても5個ぐらいです。
しかし、これも何せ数が多い。
追加コーナー③ その他の重要コロケーション
さらにどこのグループにも入りきらなかった重要語をコロケーションで紹介しています。
単語編は大体以上の要素から構成されています。単語編だけで、全体の7割ぐらいを占めます。
この後には、熟語編と時事英語編が続きます。
簡単に内容を紹介しておきます。
熟語編
熟語のパートでは、単語同様、類似した意味を持つ熟語をグループでまとめて紹介するパターンと、そこに入りきれなかった熟語をコロケーションで紹介するパターンにわかれます。
ページ数は単語に比べたら少ないですが、出てくる熟語の数はかなり多いです。他の類書にも載っていないような熟語が満載ですので、ここを覚えると洋書を読むのがさらに楽しくなること請け合いです。
時事英語編
英検で特に重要になってくる時事的な単語や専門用語だけを取り出したコーナーです。かなりマニアックな専門用語まで含んでいます。この辺の単語たちは、意味が分かるだけでなく、重要なものはアウトプットできるようになっておくと、2次試験がかなり楽になるのだろうと思っています。(ぼくはまだそこまで達していません)。
英検1級語彙対策を「おもしろく」してくれるその他の教材についてはこちら。
【英検1級語彙問題】おすすめの「非公式」単語本を紹介 おもしろく深く単語を学ぶ
まとめ―1冊目としてはおすすめしない
この本は、英検1級向けの学習としては、1冊目に買うことはまったくおすすめできません。せめて、1級向けの『パス単』の単語は覚えてしまってからぐらいでないと、厳しいです。
ぼくはこの本をいきなり使って、英検1級の学習に1度完全に挫折しています。これで1級合格は2年ほど遅れてしまいました。もちろん、遠回りには遠回りにしかない景色があるものなのので、それほど後悔はしていませんが、それでも最初に『パス単』を手にしておけばよかったなあと今でも思います。
一方で、『パス単』などを使って1級には合格してしまって、それでもボキャビルを続けたいというときは、これほどためになる本はありません。
単語をもう一度、意味のまとまりで整理しつつ、覚え切れていない語をおピックアップし、さらに難しい難単語に出会えるという点で、この本はありがたい存在です。このレベルの語彙を収録した単語本なんて、日本で出版されている書籍の中ではほとんどありません。
超人レベルにはぼくもまだまだ遠いですが、この本や、植田一三先生の最新刊『16000語レベル最強ボキャブラリービルディング』なんかを使って、語彙学習は続けていきたいと思います。