IELTSは英語の試験として世界でもっとも広く認知された試験の一つで、近年日本でも関心が高まりつつある試験です。試験の特徴はいろいろあるのですが、どんな試験か体験するにはリスニングをやってみるのが一番手っ取り早いと思います。
今回は、そんなIELTSのリスニングパートについて、どのような形式でどういった問題があるのか、そしてどのように対策をしたら良いのかを考えてみます。
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リスニングパートの概要
IELTSのリスニングは試験時間30分、全部で4つのセクションから構成されています。問題数は各セクション10問ずつで、合計40問です。
試験時間はリスニングの試験としてはどちらかというと短い方です。TOEFL・ケンブリッジ英検などの他の英語試験では、もう少しリスニング試験の時間は長くなります。
IELTS試験の特徴としてよく挙げられるのは次の点です。
・書き取り問題がある
・イギリス英語中心
・1回しか聞けない
・パラフレーズがものを言う
独特の問題形式
IELTS試験では、解答方法が大きく分けて2通りあります。1つは、単語やフレーズを書き取るディクテーション形式で、もう1つは選択式の解答方法です。
英検・TOEIC・TOEFL・センター試験をはじめ、日本でよく知られた英語試験のリスニング問題はほとんどが全問マークシート式の選択問題です。そのため、IELTSのディクテーション形式は、IELTSではじめて体験するという人も結構多いです。
ちなみに、イギリス系の英語試験としてもう一つ有名なケンブリッジ英検にはIELTSと同様書き取り式の問題も出題されます。
聞き取る内容もダイアログとモノローグの2つに大きく分けられます。基本的にはモノローグで1人の人物が語る内容を聞き取るか、ダイアログで2人の人物が話している内容を聞き取るかの2通りしかありません。
以上を踏まえて、各セクションの内容を簡単にまとめておくと次の通りです。
Section 1(ダイアログ・書き取り)
Section 2(モノローグ・選択)
Section 3(ダイアログ・選択)
Section 4(モノローグ・書き取り)
試験時間自体はどのセクションも同じぐらいです。
書き取り問題というのは英検やTOEIC・TOEFLを経験している人にとっては、なかなか新鮮な問題だと思います。ちなみに私は書き取りがあるIELTSの方がなんだか英語を「使っている喜び」みたいな感覚が少しだけ持てるので好きですね。
ただ、書き取りになった以上、スペルは正しく書かないといけませんし、単語の形(特に名詞の単複)数字・固有名詞のスペルなどを含めてしっかりと聞き取らないといけません。
慣れてしまえば記述だから特別難しいというわけでもないです。私の体感としては、IELTSのリスニングは、英検準1級以上のリスニング試験がそれほど苦でない人にとっては結構楽しめる問題ではないかと思っています。
イギリス英語になれよう
IELTSの特徴として、イギリス英語がメインで使われているという点があります。全体としては、それでも英語であることには変わりないので、普段から英語を聞いている人にとってはそれほど大きな障害ではないのですが、たまに素人目に見てもけっこう「なまってるな~」みたいな話者も登場したりして、そのときは結構聞き取りに苦しみます。
特に、IELTSのリスニングはアメリカ人からしたら結構癖の強い「変な」(あくまで彼らからしたら)英語を話す話者も登場するようですが、慣れてしまえばたいした問題ではありません。各セクションの最初に “You will hear a number of ~~”みたいなアナウンスがあるのですが、ここを聞くだけでも、ちょっと習ってきた英語と違う?みたいに感じるかもしれません。
試験の内容としても、イギリスやヨーロッパ諸国・オーストラリアなどに関する話題が多い印象を受けます。その点、アメリカ英語が基調の日本人は慣れるまではちょっと苦労するかもしれません。
どんな問題でもチャンスは1回だけ
そしてIELTSでは、すべての英文は1回しか聞けません。IELTSは英検やTOEFLと違って、問題はすべて印刷されているので、英文を聞きながら問題を見て解答を考えることができるのですが、それでも1回しか聞けないのはIELTSを難しくしている最大の要因だと思います。
地図や表などいろいろな場所に目を向けないといけない問題であったり、選択肢といくつかのワードを一致させる問題などもありますが、聞けるチャンスは1回だけです。書き取り問題でも1回だけしか聞けません。
どの試験でもそうなのですが、IELTSはパラフレーズ(言い換え)表現を見抜くことが大きな鍵を握ります。
特に書き取り問題は、本文をパラフレーズ(言い換え)した文が印刷されているので、聞き取った英語を、瞬時に頭の中で印刷された英文にあてはめて、空欄には入る語を書き取らないといけません。
そのため、IETLSのリスニングパートでは、「聞き取る力」と同等かそれ以上に「聞き取った情報を処理する力」みたいなものが要求されます。これがIELTSリスニングの一番大きな特徴だと私は思っています。
設問も単純な内容一致問題は少ない一方で、複合的にイラストと英文をマッチさせたりする問題などもあります。まさに情報処理能力が要求される試験です。
他の試験と簡単に比較
ネットでざっとリサーチした結果は、IELTSの方がTOEFLより点数を上げるのが簡単であるという声も目にしたりするのですが、TOEFLとどっちが簡単なリスニングかはなかなか判断しにくいですね。
私の体感としては、読まれる内容を聞き取るだけならTOEFLの方が簡単です。慣れ親しんだアメリカ英語で、割と聞き取りやすく読んでくれます。読まれる内容の専門性はTOEFLの方が高いですが、リスニングは何より聞き取れないと始まらないので、TOEFLの方が少しだけ高得点は出しやすいです。(私は)。
少なくともTOEFLリスニングで9割取るのは、IELTSで9割正解するより私にとっては簡単です。こればっかりは個人差があると思うので、なんとも言えません。
英検1級のリスニングと比べても、IELTSは別段難しいというわけでもないです。聞き取るだけなら、こちらも英検の方が、日本人が慣れ親しんだ「きれいな」英語を読んでくれるので簡単ですが、設問の難易度などを考えると英検1級とIELTSはそれほど差はないというのが私の印象です。
ちなみにセンター試験のリスニングよりは遙かにIELTSの方が難しいです(笑)。IELTSを受けた後にセンターリスニングやってみたら、まるで小さな子どもに聞かせてあげているような音声に感じるでしょう。
ケンブリッジ英検はFCE以上だと、IELTSより難しいです。その点、ケンブリッジ英検(特にCAE)のリスニング問題は、IELTSの練習問題として取り組んでもかなり効果的だと思います。
この2つの試験は同じ機関が作成しているので、登場する話者の癖などは結構似ています。その上、ケンブリッジ英検ではIELTSより容赦ないスピードで英語が読まれるので、このスピードでシャドーイングをやっていたら、IELTSのリスニングにもかなりついて行けるようになると思います。
IELTSについて、他の記事はこちら。
・【IELTS】試験の内容・難易度・対策を考える――パスポート忘れないで
・ケンブリッジ英検の難易度は? 試験の概要と英検・IELTSとの比較
各セクションの内容
ここからは、ILETSのリスニング試験について、各セクションをより詳ししく見ていきましょう。最初に述べたとおり、問題数は各セクション10問ずつで、合計4セクションで40問です。
正答数とIETLSバンドスコアの換算はだいたい次の通りです。
換算バンドスコア | 40問のうちの正答数 |
5 | 16 |
6 | 23 |
7 | 30 |
8 | 35 |
(参考:IELTS NAVI-アイエルツ ナビ「スコアと採点の仕組み」 (http://ieltsnavi.com/score.html))
ちなみに、2017年試験のリスニングの日本人平均バンドスコアは5.91です。上の表から考えると、日本人の平均正答数は20問(40問中)というところでしょうか。私の印象ですが、正答数は少なくとも25問ぐらいは超えてこないと、なかなか試験を受けるのが苦しいかなという感じです。
(参考:https://www.ielts.org/teaching-and-research/test-taker-performance)
Section 1(ダイアログ・書き取り)
このセクションでは、2人の人物の会話を聞いて、印刷された英文の空欄を補充します。英文の内容は、日常に関するものです。また、電話の会話であることが多いです。
たとえば、何かをお店に問い合わせている会話であったり、スポーツクラブや料理教室のような、何らかのサービスに関する情報をやりとりする会話がほとんどです。
このセクションだけ、最初の空欄は例題としてすでに埋められています。はじめに解答方法を説明して、設問に目を通す時間が与えられます。その間にできるだけ設問の内容を頭にたたき込んでおくといいでしょう。
このセクションでは、最初に問題1~6に目を通す時間が与えられ、まずそこまでの英文が読まれます。そしてさらに残りの7~10に目を通す時間が与えられ、会話の続きが読まれるという構成になっています。
受験者にとっては優しいこの措置により、このセクションは全体として簡単なセクションになっています。7.0以上の高スコアを出したいならここではできるだけ全問正解したいところです。
注意すべきは、固有名詞や数字のスペルをしっかりと聞き取ることです。会話の途中で、必ず数字か固有名詞のスペルを聞き取る問題があります。最初に1人がその単語を普通に発音した後、「スペルは~」みたいな感じで、単語の綴りを読んでくれます。その綴りをしっかりと一字一字聞き取らないといけません。
アルファベットの読み方を知らない人でIETLSを受ける人はほとんどいないと思いますが、あらためてスペルの読み上げを聞き取る練習はしておいた方がいいです。特にオーストラリア訛りの話者なんかが、「R」を読むときなんか、ぽかんとした感じの「ア~」といった具合になるので、面食らわないようにしておきたいところですね。
数字も瞬時にアラビア数字に変換できるようにしておきましょう。
また、空欄の内容から、単数複数どちらでもよい名詞もありますが、どちらかでないと正答にならない答えもあるので注意してください。前に不定冠詞がついていたら単数名詞だと分かりますが、定冠詞や無冠詞の時は、文脈から判断するか、語尾までしっかり聞き取っておかないといけません。
Section 2(モノローグ・選択)
このセクションは1人の話者が話す内容に関して、選択式の問題に答えます。設問は、内容一致問題(英文の内容に一致するものを選ぶ)から、地図や表の記号に対応する語句を選んだり、複数の項目に複数の選択肢を一致させたりと、多岐にわたります。
話される内容は、Section 1に続いて、日常的な話題が多いです。会社の説明や、イベントの説明、街の紹介などが題材として主に使われています。
このセクションは前半と後半で、違った問題形式になります。どの形式が何問あるかなどは、試験によって異なります。
内容一致問題は3択から選ぶことになるのですが、英文のスピードが速く、かつ同時に問題を処理していかないといけないので、かなり集中して聞き取らないといけません。
また、引っかけ問題も多く、聞き取れたつもりでもダミーの選択肢を選ばされたりということもしばし起きてしまいます。1語聞き取れないがために、正しい答えを見抜けなかったりもするので、注意力は最大にしておく必要があります。
地図を見て複数選択肢の場所を地名に一致させる問題なんかもあります。引っかけ要素は満載です。「Aかと思ったら、やっぱりB、かとおもったら最終的にはCだ」みたいな感じでどんどん会話は進んでいきます。「Aだな。BやCも考えたけど、やっぱ違った」見たいな話の流れになることも多く、うっかりしているとついBやCを選んでしまいます。
モノローグなので、仮になじみのない訛りの話者が出てきたとしても、最後までその人物がぺらぺらと話します。そんなときは、セクション全体が一気に難しくなります。これも結構なハードルです。
Section 3(ダイアログ・選択)
このセクションでは、設問はセクション2と同じような感じで、話者が2人になります。
話される内容は、もっぱら大学生活に関することです。アカデミックな話題についての教授やアドバイザーと学生のやりとりになる場合がほとんどです。
アカデミックなのは場面だけで、やたらと専門的な内容に踏み込むような会話になることはあまりありません。ここがTOEFLと違うところです。TOEFLのリスニングではアカデミックな学問内容そのものに関する聞き取りの要素が強いですが、IELTSのこのセクションでは、せいぜい論文をどうしたら良いとか、プレゼンをどうしたら良いかとかのような話題になることがメインです。
アカデミックな内容に踏み込むにしても、特に専門的な知識が必要とされる話をすることはほとんどなく、常識的な内容がほとんどです。子どもでも理解できるぐらいの内容しか話されません。
ディスカッションなので、片方の意見を受けてもう片方が意見を修正して、最終的にはどういう結論になったかということを尋ねてくる設問もあります。どれが片方だけの意見か、どれが共通の見解に落ち着いたかを見極める必要があります。
このセクションもセクション2と同様で、IELTSならではの引っかけ要素は満載という感じです。言い直しや、訂正には特に注意して聞き取る必要があります。
Section 4(モノローグ・書き取り)
最後のセクションでは、長めの講義・講演のような英文を聞いて、手元に印刷されているノートの空欄を埋めていくという形式です。
英文の内容は、学術的なことや、ビジネスに関することなど、少し専門性のある内容になります。聞き取るべき単語自体は、基本的な単語が多いので、特に背景知識が必要であるわけではありません。
このセクションでは、最初のセクション1の書き取り問題と違って、すべての設問に最初に目を通し、最後まで英文は一気に読まれます。この時間は結構短い割に目を通しておくべきノートは1ページ分と長いので、最後までなかなか目を通せないというのが多くの受験者の現実だと思います。
せめて、前に冠詞があるから名詞だなとか、be動詞の直後の1語だから多分形容詞だなとか目星はつけておいた方が良いでしょう。
特に注意したい空欄は、文の最初が空欄になっているパターンです。途中が空欄になっていると、文の流れから、「次にここの語が読まれるぞ」ということがなんとなく予想できるのですが、文頭の場合は、うっかりして単語を聞き逃す可能性が高くなります。
このセクションでは、書き取りの要素があるので、それほど速く英文が読まれることはありません。(あくまで体感ですが。)前の2つのセクションよりも書き取りに優しい速度で読んでくれます。特に解答に入るキーワードなんかは、結構(時にわざとらしいぐらい)ゆっくりと読んでくれることもしばしばです。
形式が似ているのはケンブリッジ英検のリスニングPart 2ですが、ケンブリッジ英検の書き取り問題に比べたら、IELTSのセクション4はかなり親切なスピードだと思います。
印刷されているノートは、流れる英文本文そのままではなく、適宜パラフレーズされたものなので、英文を聞きながら、瞬時にノートのパラフレーズ文のどこを読んでいるかを理解するスピードも必要になります。
スピードは良心的な一方で、1回しか聞けない上に、全体の英文はかなり長く、言い換え表現には常に頭を働かせて対応していかないといけないので、単純な聞き取り能力に加えて、かなりの英文処理能力が求められます。
逆に、リーディングなどでも読むスピードが速く、それなりに英文の情報を処理できる人にとっては、IELTSのリスニングは対応しやすいと思います。
まとめ――良質な試験には自由な対策を
IELTSリスニングの特徴は、やはりなんと言っても書き取り問題かなあと思っています。セクション1と4は、IELTSなんて興味がなくても、この問題だけでも体験してみると、他の試験では味わえない感覚があると思います。
個人の好みの問題ですが、私はIELTSやケンブリッジ英検のリスニングは他の試験に比べても結構好きです。やはり手を動かして英語を「記述する」ということは、なんだか言語をを使う喜びのようなものを与えてくれるからです。
この喜びは、英検やTOEIC・TOEFLのようなマークシートだけのリスニング問題にはありません。
繰り返しになりますが、IELTSのリスニングを乗り越えるには、素早い英語の情報処理能力を身につけないといけません。流れてくる音声を瞬時に理解できるまで、多聴多読をするというプロセスが高得点には欠かせません。
おすすめの対策は、過去問でシャドーイングして、BBCのニュースを聞いて多聴につなげるというやり方です。
IELTSは、試験自体の出来が素晴らしく、テクニックだけではどうしようもない問題になっています。それは言い換えれば、地道にしっかりとした地力をつけていくしかないということです。
そういう試験に対しては、えてして、工夫次第で楽しみながら対策ができます。私はBBCのドラマDVDをイギリスから取り寄せて字幕をつけてみたり、シャドーイングしたりしていました。
自分にあった対策の仕方を模索しながら楽しく学習できると、結果はそれなりについてくるるものです。IELTSはそんな試験だと思います。