大学入試は多くの高校生にとって英語学習のゴールとなるので、大きな関心が寄せられます。今回は、日本を代表する外国語大学である東京外国語大学の入試問題を題材に、英語試験のあり方について考えてみたいと思います。
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入試の中では最長クラス
東京外国語大学の入試問題は、英語力を試すにはとても適した良問が並んでいます。
外国語大学ですので、入試における英語の配点はかなり高く、試験時間150分・300点満点という非常にボリュームのある試験です。
大学入試の英語としては、150分の試験時間は最長クラスになります。英検1級の1次試験でも合計時間は120分ちょっとですので、東京外大入試の英語の充実ぶりは推して知るべしといったところです。
簡単に構成をまとめておくと、次の通りになっています。
読解150点
リスニング150点
(リスニングのうち半分ほどはライティングとの融合問題)
いくつかの問題形式で、スピーキング以外の英語の書く技能を徹底的に試される試験になっています。
難易度的には国公立大学の常識の範囲内というか、どの高校生でも解答できないような難問奇問はありません。英検準1級レベルの英語力がある人にとっては、ちょうどいい難易度の問題だと思われます。
それでも、やはり大学入試の中では間違いなく難しい方の問題です。
東京外大の英語の特徴
東京外大の問題を特徴付けているのは、以下の点でしょうか。
・和訳英訳の問題はない
・英文を読む量が多い
・リスニングとライティングの融合問題
日本語はあまり書かない
現在、大学入試の問題から下線部和訳や和文英訳の問題は減りつつありますが、依然それらを全く含まない出題をしている国公立大学は少数派です。難関大レベルでは皆無といっていいでしょう。
一方で外国語大学の雄、東京外大は、和訳問題や和文英訳はここ数年出題していません。日本語で記述する問題は、すべて字数指定の説明問題か要約問題です。日本語を記述する問題の割合が、70点分(300点中)と他大学にくらべて低いのも特徴です。
さらに、試験時間が充実している分、読むべき(聞くべき)英語の量は、多いです。特に、大問1の長文問題は、3~4ページほどの長さで、大学入試の長文としては最長のレベルになります。問題自体の難易度は、他の難関国公立大学と比べてもそれほど差はないのですが、読むべき量は群を抜いています。
一方で、解答に書くべき日本語の記述量はそれほど多くありません。日本語で解答する問題の合計字数は、2018年版で、350字でした。原稿用紙1枚いかないぐらいでうす。
阪大や京大のように、長めの下線部訳が主体の大学では、もっと記述量が多くなりがちなので、それにくらべたら、150分という試験時間を考えると、日本語を書く量は少ないと言えるでしょう。そのぶん、英語の記述量は圧倒的に多いです。
読解問題は、最初の大問以外は、記号か英語1語程度で答える問題が主です。ほとんど記述の要素はありません。
半分はリスニング
東京外大の入試を特異にしている点として、リスニングの配点の高さと、リスニングとライティングの融合問題が出題されるという点があります。
リスニングは配点の半分である150点分です。大学入試の2次試験としては、他にない配点の高さです。
多くの大学では配点は公表されていませんが、リスニングを実施している大学の、リスニングの配点はせいぜい2~3割程度だと思われます。大問が4~5あって、そのうち1つがリスニングというスタイルが主です(東大、阪大外国語学部、一橋大など)。
そもそもリスニングがない入試のほうがどちらかというと一般的です(京大《総合人間学部を除く》、北海道大、東北大、名古屋大、九州大など)。
そう考えると、東京外大がいかにリスニングを重視しているかが分かります。
リスニング試験の内容は、分量は多いですが、それほど難しいものではありません。めちゃくちゃ読むスピードが速いなんてことはありませんし、むしろ、英語を聞き取る訓練を積んでいる人からしたら、十分聞き取りやすいスピードで読んでくれている印象です。
雑誌や論文的な容赦ない文章を読むリーディング問題に比べると、リスニングは良心的です。あくまで、音声は良心的な早さで読まれるというわけであって、問題自体が簡単というわけではありません。
TOEFLのような融合問題
リスニング問題の後半は、ライティングとの融合問題になっています。融合問題は次の2つの英文を書き上げないといけません。
① 聞き取った内容を英語で要約
② その内容に関する質問に対する意見文
英語試験に詳しい人であれば、すぐにTOEFLみたいだと気づくはずです。東京外大のリスニング×ライティング融合問題は、まさにTOEFLのライティングセクションと同じような内容になっています。
私が知る限り、このような形式の問題を出題する大学は東京外大だけです。エッセイ2本なので、英語の記述量は400語程度とかなり多めです。
融合問題で400語の英文を書くという試験は、英語運用能力をはかる試験としては、大学入試のなかでも際だって「本格的な」問題であるといえるでしょう。
2018年の問題は
2018年の問題を軽く振り返っておきましょう。過去問は、東進のホームページなどで無料で見ることができます。
大問1(長文読解・配点70)
人間の脳に関する書かれた文章。集団の中で他人との関係を構築していく際にどのように脳がはたらくかが述べられています。3ページ半ほどで、問いは6つです。記述量は日本語で350字程度。説明問題の他に、緩やかに段落を要約するような問題もありました。
大問2(長文読解・配点40)
カナダ建国150周年について、高級誌 “The Economist” から採られた文章。文中の10個の空欄に、語群中の動詞を正しく変化させて補うという形式でした。
The Economistなんていう雑誌は、高校生レベルを遙かに超えたような文章を収録しているものなので、なかなか語彙はレベルが高いですね。ただ、設問に答えるのはそれほど難しくはありません。
大問3(長文読解・配点40)
言語が生み出されたり失われたりする課程について述べられた文章。文中の空欄に、選択肢群から、当てはまる文章を入れるという形式です。近いのは、ケンブリッジ英検FCEのReading and Use of English Part 6とかなのですが、まあ、よくある文中の空欄補充という感じです。東大の大問1(B)は、2018年は似たような形式でした。
以上が読解パートです。すべてイギリス英語で書かれた文章でした。
大問4(リスニング・配点30)
440語程度の留学に関する音声を聞いて、3択問題6つに答えます。音声は1回だけ流れます。
大問5(リスニング・配点40)
570語程度の音声を聞いて、設問に答えます。1回だけ流れます。フランスのノワールムティエにおける塩の歴史に関するインタビューが題材です。設問は、文の一部が3択になっているので、そのなかかから正しい語を選ぶという感じです。
大問6(リスニング・ライティング融合配点80)
学生の評価についての英文を聞いてその内容を200語程度で要約します。音声は2度流れます。文の半分ぐらいを空欄にしたメモが印刷されているので、音声を聞きながらあそのメモを完成させ、それを元に要約文を作るということが想定されています。
後半は、その内容に関して出された問いに、自分の意見を200語程度で書くという形です。
まとめ 入試英語、かくあるべし?
東京外大の入試問題を一言で言うなら、「英語運用能力を試す本格的な試験」とでもいえるでしょうか。
大学入試の中では、TOEFLなどの世界的に認知された英語試験にけっこう近い問題を出してきます。もちろん、TOEFLのリスニング(ライティング問題中の)に比べたらはるかに聞き取りやすい英語ですが、見た目はなかなか本格的です。
入試の主流であった「訳」という形式がまったくといっていいほどない試験ですので、和訳問題や和文英訳問題不要を唱える人にとっては、まさに入試問題のお手本のような試験かもしれません。
ひょっとしたら、日本の大学の入試はこうあるべきという姿を東京外大が示しているのかもしれません。
東京外大の英語で高得点を取るためには、文章を読んで、しっかり母語で内容を語ることができないといけません。英文の構造も的確に見抜けないといけませんし、語彙力や確かな語法の知識も必要です。英文の論理展開も自然と見抜けないといけません。
リスニングにおいては、聞き取る力に加えて、1回しか聞けない問題もあるので、瞬発的な英語理解力が必要です。ライティングで必要な、英文を書いて文章を組み立てる力は言わずものがなです。
そう考えると、良い試験だと思いますし、単純に文章を読んでみて、そして問題を解いてみて、楽しめる問題だと私も思っています。
受験生でもそうでなくても、東京外国語大学の入試問題からまた英語について学べるでしょう。少なくとも、英語について何か考えるきっかけは得られると思います。
良い試験とはそのような試験だと私は思います。
ただ、英作文の採点、大変だろうな~。
そして、東京外大は、今後スピーキングも入試に取り入れるそうですね。ますます楽しみな入試です。