大学入試の英語試験について、このサイトでは、いくつかそれぞれの概要と特徴を考察してきました。今回は、外国語学部として、西日本最大規模をほこる大阪大学の外国語学部入試について考えます。
阪大英語の特徴
阪大の英語は、以前の京大ほどではありませんが、大学入試の伝統を色濃く保った英語の試験になっています。
英語は実用的でなければならない、スピーキングが大切であって、和訳問題は必要ないという考えの人にとっては、なかなか取り組むのに抵抗がある試験だと思います。ぼくもどちらかというとそうですので、実は阪大英語はまあ苦手です。
和文英訳・英文和訳の難易度がかなり高い上にその分量がかなり多いと言う点で、東京外大の試験とは大きく性格を異にする試験だとも言えます。
外国語学部の入試問題は、他学部の入試より長文問題が少し専門的になり分量も多くなっています。また、リスニングも外国語学部だけの試験になります。
2018年の問題
2018年の問題構成は、例年と大きな変化はなく、次の通りでした。
大問1 | 下線部英訳 | 日本語記述
訳出量は合わせて10行程度 |
大問2 | 長文読解総合 | 問題文は4ページ
設問は全問日本語の記述 |
大問3 | 自由英作文 | 70語程度の英語で自分の「失敗」とそこから学んだことについて述べる。 |
大問4 | 和文英訳 | 又吉直樹『夜を乗り越える』から、合計9行程度の日本語を英訳。 |
大問5 | リスニング | スクリプトは2ページ分ほど
設問は全問日本語の記述 |
阪大英語も、お隣の京大とならんで記述量としては大学入試の中でも群を抜いています。なにより日本語の記述量が圧倒的です。第一問から10行程度の英文和訳とくるので、受験生はペンを止める間もないという感じではないでしょうか。
長文読解問題
外国語学部の今年の大問2(長文)は、客観問題は一切なく、全問日本語の記述式問題でした。
問題文も4ページと、入試英文としては最も長い部類でした。一般的に4ページの英文が出てくる英語の試験は日本の大学入試以外ではほとんどありません。英検1級の一番長い長文でもせいぜいこの半分ぐらいの長さです。
そして、この大問2は、今年の大学入試英語の中でも最も難しい問題の一つだったと思います。
まず、長い上に、内容は非常にアカデミックで意味が所々抽象的な議論が入ってくるので意味はとりにくいです。
語彙レベルも高く、denouement, permutation, distractability, aberrant, preeminent, postnatalなど、英検1級保持者でも意味が分からないか不安な単語も散見されます。もちろん、こういった単語を知っておかないと解答できないような設問はないのですが、文章の威圧感は察しがつくと思います。
読解の問題はどちらかというと、従来の大学入試らしさ(?)が全面に出た問題なので、抵抗がないという人もいれば、英検などの外部試験に慣れている人は、抵抗があるという人も多いと思います。
必ずしも「使える」英語を身につけるということが、こういった問題が解けることだとは思いません。一方で、大学はこういった文を読み解ける(、読み解こうとする)人間を求めているのも事実だと思います。だから、入試英語は位置づけが難しいところだと思います。
和文英訳問題
英作文(和文英訳)の問題は、『火花』で話題になった又吉さんの文章ということもあり、ぼくとしては結構面白い問題だなと思いました。
大学入試でお笑い芸人が書いた文を英作文の題材に採用することはほとんど例にないことではないでしょうか。(関西人ならではか?)
「笑い」を生み出す人間の、研ぎ澄まされた言語感覚を英訳する問題というのは、それだけでもぼくなんかはわくわくしてしまいます。油断しているとあっさり足下をすくわれるような難易度ではありますが。
実際、和文英訳が英語の試験で必要になるのは、大学入試ぐらいです。
大人になって受ける英語の試験で、和文英訳を問われることはほぼないと思います。英検やTOEFLだろうが、一般の英語試験の英作文はすべて自由英作文です。かといって、和文英訳にまったくやる価値はないのではないかとぼくは思っています。
他人が書いた知恵ある言葉を、敬意を持って誠実に表現する力だって、英語の表現力として大切だと思いますし、それができないと自由英作文も薄っぺらいものになってしまうのではないかと思うことがあるからです。
英検突破のための自由英作文のテクニックを詰め込んだところで、試験の点数は上がるかもしれませんが、真の表現力が身についているとは限りません。実際、英検のライティングなんて、パターンと「型」のライティングであるところが大きいです。
そんなときに、和文英訳はちょっとだけでも表現を広げてくれる手助けをしてくれるのではないかと思います。
リスニング問題
2018年のリスニング問題は。長い英文スクリプトを聞いて、日本語の設問に日本語で答えるという形式でした。
長文問題をそのままリスニングやってみたという感じでしょうか。
リスニング試験において、一派的に、大多数を占めるのは選択式の問題です。センター試験を始め、東京大学など、多くの大学が選択式の客観問題をリスニングでは採用しています。(東大は記述の年もありますが。)
英検やTOEICなどの外部民間試験のリスニングもほとんどが選択式です。記述といっても、IELTSやケンブリッジ英検のように文の一部をディクテーション(書き取り)するという形式が一般的です。
阪大のリスニングは、かなり長い英文を聞いて、それに関する設問に日本語で答えるという形式です。リスニング試験としてはあまり他では見ないような形式だと言えます。
問題は先に見ることができるので、どのような内容を聞き取らないといけないか前もってしっかり整理しておく必要があります。
かなり長めの文章を聞くリスニングでは、まずは全体をしっかり理解することが最優先事項です。細かい点はもちろんメモを取ることも必要ですが、それに気を取られて全体の理解を犠牲にするぐらいなら、メモは最低限にして聞くことに徹する方が、出題者の求める回答ができます。
いずれにせよ、長文リスニングでは英語の総合力が問われます。かつ、解答の際には、限られた時間内で適切に日本語でまとめる能力も必要になるわけです。
阪大のリスニングに必要なのは、TOEFLのリスニング・講義問題のように長いスクリプトを聞いて、全体の内容をしっかり理解することです。
外国語学部だけに課せられるこの問題は、差がつきやすいところなので、しっかり集中力を切らさず長い文を聞き取ることになれていないといけません。
まとめ
阪大の問題は、大学入試のなかでも、日本語の記述量がかなり多い試験です。
訳読中心の英語学習を批判するときには、真っ先に矢面に立つような問題であることは確かです。阪大は、お隣の京大と並んで、そのスタイルをかたくなに守っている大学です。
外国語学部の問題は、読解とリスニングで他学部よりもさらに多くの日本語を書かないといけません。一方で、英語の記述量はどの学部もほとんど同じぐらいです。強いて言えば、文学部と外国語学部がちょっとだけ多いぐらいです。
日本語だろうが英語だろうが、言語を自由に使いこなすセンスも必要になってきます。こういった感覚は一朝一夕に身につくものではないので、日頃から多くの英語に触れ、考え、少しずつ身につけていかないといけません。
「オモロイ」人材を求める阪大が課してくる試験の解答欄に何を表現するか、表現できるかが阪大英語を攻略する鍵だと思います。
東の雄、東京外国語大学のような「英語の実用性」に直接即したような試験ではありませんが、偉大な学者たちの叡智がつまった試験であるのは確かなはずです。
肯定派だろうが、否定派だろうが、取り組んでみて得られるところは必ずあるので、いちどチャレンジしてみてはどうでしょうか。
問題は代々木ゼミナールのサイトなどで見ることができます。