英検1級の語彙問題は、数ある語学試験の中でも最難関の部類に入ります。面接と並んで、英検1級の最も攻略に時間がかかるパートです。今回は、そんな英検1級用の単語集として人気の2冊を比較してみたいと思います。
Contents
英検1級用単語集
『パス単英検1級』
英検用単語集の代名詞と言えば、『パス単』です。
『パス単英検1級』は、英検の語彙問題に出題された単熟語を「出る順」に配列しています。そのため、重要な単語から効率よく学習できます。
内容は、訳語と類義語対義語、派生語、例文というシンプルな構成です。シンプル故に機能的で使いやすい単語帳になっています。
『パス単英検1級』の収録語数は、単語2100語、熟語300個です。
1級用とされていますが、中には中級者以上なら知っているような単語もあります。一方で、相当語彙力がある人でも意味が不安な単語もあります。
英検1級の語彙問題を分析して作られた単語集です。ただ単に合格するだけなら、『パス単』だけでも十分可能でしょう。
『究極の英単語 vol.4 超上級の3000語』
アルクの『究極の英単語』シリーズは、全4冊あります。英検1級レベルの語彙を多く収録しているのはその最終巻であるvol.4です。
この単語集は、SVLというアルク独自の重要度別英単語リストを元にして作られています。SVLには12000語あり、このvol.4では最後の3000語を収録しています。つまり、所謂9000語レベル~12000語レベルの単語を収録しているわけです。
この単語集には先述の通り、3000語が載っています。収録単語数だけでは『パス単1級』の2100語より900語多いと言うことになります。
『パス単』は、英検1級合格を可能にしてくれる本です。その上で、『究極の英単語vol.4』の単語を覚えると、語彙問題で分からない問題は10%以下になってくるはずです。こちらはいわば、合格ラインは超えた上で、さらに高得点を目指すための単語集と言えるでしょう。
TOEFL・TOEIC・IELTSなどの一般的な英語試験では、英検1級語彙問題より上の語彙を問われることはまずありません。つまり、『究極の英単語vol.4』を終えると、TOEFLでもIELTSでも、全セクション含めて知らない単語にはほとんど出会わないでしょう。洋書・英字新聞もほとんどのものはかなりクリアに理解できるはずです。

収録語の比較
英検1級合格に役立つ単語集の2冊を紹介しました。
実際には同じようなレベルの単語集であるため、収録語彙の重複も多いです。以下では、SVLを基準にして、『パス単』の単語とのかぶり方を紹介します。
多くの人は『パス単』をまずは手に取ると思います。その上で、両方を学習するメリットが見えてくるはずです。
収録語
結論から言いますと、次のようになります。『パス単』は熟語を除いた単語編だけをカウントしています。
重複…872語
『パス単』だけの語…1128語
『究極』だけの語…2128語
総収録語は『パス単』2100語・『究極の英単語』3000語でした。以上のことから、『パス単1級』を全部終わらせても、『究極の英単語vol.4』に進むとまだ2128語も知らない単語に出会えるわけです。
ここでは、-lyをつけただけの副詞や過去分詞からできた形容詞なども別の単語として扱っています。そのため、実際には「意味の分かる」単語の重複はもっと多いでしょうが、ここではその点は考慮しませんでした。

収録語の傾向
今回、これを調べるために『パス単』の収録語をすべてSVLで参照するという割と途方もない作業を行いました。
その中で2つの単語集の収録語には緩やかな傾向の差があったので、明記しておきます。
『パス単』
・英字新聞・報道などで用いられるような「高尚な」単語中心
・副詞として語彙問題に多く登場する単語は、副詞として収録
『究極の英単語』
・日常語・俗語から専門用語まで幅広い語彙を収録
・副詞形より形容詞形を収録してることが多い
収録語彙の違いは、『パス単』の方に偏りがあるようです。(主観もあるので、明確な基準があるわけではありませんが。)
『パス単』は英検らしい、社会性のある話題についての文章で用いられるような語彙が多めです。必然、英字新聞などの報道英語で目にするような単語が多く収録されています。
リーディング・ライティング・スピーキングにおいて英検が扱うテーマを考えれば当然の傾向と言えるでしょう。そのため、『パス単』にはわりと高尚な言葉が多いです。カジュアルな言い回しや俗語で使われる単語はあまり見られません。
一方で、『究極』の方が雑食といった感じです。俗語だろうと、はたまた超専門用語だろうと何でも収録しています。
傾向としては、TIMEやEconomist読むなら『パス単』との相性がいいでしょうが、小説などを読む際には『パス単』はあまりカバー率が高くないように思います。小説を含めていろいろなジャンルの英文を読みたいなら、『究極』に出てくる単語は欠かせません。
また、単語の品詞も傾向の違いがありあます。
『究極』の方では、どちらかというと単語の核になる形を収録しています。一方『パス単』ではその限りではありません。
たとえば、『究極』にはempirical(経験の)、haphazard(でたらめの)という単語が収録されています。これらは『パス単』では、empirically, haphazardlyという副詞形で収録されています。
これは、『パス単』のほうが実際の英検に出題された形を優先しているからだと思われます。
これらはあくまでかなりゆるやかな傾向であるので、私の主観である部分も大きいです。
ただ、幅広い洋書を読んで、TOEFL・IELTS(アカデミック)の長文で満点近くとるなら『究極』も必要、という点は事実だと思います。
『パス単』をSVL参照
『パス単』に含まれている全単語をSVLで参照すると、次のようになります。
SVLレベル | 『パス単』中の単語数 | 例 |
2 | 7 | address. fuel, claim |
3 | 6 | dismiss, complex, thread |
4 | 27 | rebel, justify, expand |
5 | 54 | detect, prevail, phase |
6 | 102 | evolve, shatter, dart |
7 | 154 | thrive, amend, implore |
8 | 167 | irrational, lunar, disciplinary |
9 | 185 | tactics, apathy, tentative |
10 | 249 | reclaim, procure, pawn |
11 | 353 | defunct, prolific, adamant |
12 | 270 | cinch, truancy, commotion |
SVL外 | 526 | bigot, morsel, insinuation |
この表のうち、SVLレベル10~12の872語が『究極vol.4』とかぶっているわけです。
これらのことから分かる点を簡潔に。
・『パス単』には基本単語も多い
・『パス単』ではSVLの12000語以外の語が526語ある
ご覧の通り、『パス単』には、SVLレベル9以下の基本語も多いです。ちなみに、英検準1級の語彙レベルはSVL 8、2級の語彙レベルはSVL 4のあたりが合格ラインです。
『パス単』にはSVLの下の方の単語もそれなりに収録されています。ただし、『パス単』の基本語は、基本的な意味とは違う単語で載っていることがほとんどです。そんため新しく学び直すように設定されているわけです。
ちなみに上の表中、SVL9以下(『究極vol.4』未満)の単語数の合計は、702語でした。以上をまとめると、『パス単』の単語は次の通り分類できます。
SVL9以下 | 『究極の英単語vol. 1~3』 | 702語 |
SVL10~12 | 『究極の英単語vol.4』 | 872語 |
SVL外 | (『パス単』のみの単語) | 526語 |
計2100語 |
忘れてはいけないのは、『パス単』にはSVL外の単語(12000語レベル以上の単語)も526語含まれているということです。
『究極』の方が収録語が多いからといってそちらだけを学習していたら、この526語には出会えません。
そして『パス単』の方が、英検に深くコミットした単語集です。つまり、この『パス単』オンリーの526語は、それなりに「英検に出る」ことが想定される単語のわけです。
実際の英検の問題をSVL参照しています。詳しくは以下の記事を参照ください。
○1級
2018年第2回1級
2018年第3回1級
2019年第1回1級
まとめ
語彙集を2冊比較しましたが、結論を言うと、ベストは、「どっちもやる」です。
今回は単語だけの話でした。
『パス単』→『究極』の場合は2冊目で2128語も未知語があります。
『究極』→『パス単』だったら、526語です。(『究極vol.4』以下の単語はすべて知っているとして。)
これだけ見ると『究極』の方がカバー率は高そうですが、実際には英検1級語彙問題にはSVL12000語以外の単語もたくさん出てきます。2018年第2回試験では全84単語中25単語がSVL外でした。
『パス単』のみの526語は捨てがたいです。
そして、『パス単』には忘れちゃいけない、300個の熟語が収録されています。これも合格には欠かせません。
ということで、繰り返しですが、結論:
どっちもやりましょう。
追記。
2018年末に1級レベルの上級語彙を扱った新たな単語本がジャパンタイムズから発売されました。その名も『英語を英語で理解する 英英英単語』です。この最新単語集には、過去の英検1級で出題されたもので、かつ『パス単1級』や『究極の英単語vol4』に収録されていない語も含まれたりしています。
以下の記事でこれら3つの単語集の収録語彙の重複具合を検証しているので、よかったらそちらもお読みください。

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