大学入試

2019年早稲田(法)の自由英作文で文体練習 物語は、その1語から始まる

入試問題は模範的な解答を追求するものですよね。でも、それだけではおもしろくない。たまには「非模範的」な解答を苦心して考えてみてもおもしろいかも・・・。そう思って、今回は早稲田大学法学部の2019年入試の英作文を使って、「文体練習」をしてみました。

2019年早稲田(法)自由英作文

2019年の早稲田(法)にはイラストを描写する自由英作文が出題されました。結構話題にもなったのでツイッターなどで見たという人も多いかも知れません。

あの、ソファーとカップルと夕日のやつです。問題を見たことがない人は讀賣新聞のページ(pdf)で見ることが出来ます。自由英作文は最後の大問Ⅶです。

このイラストを見て、いくつかおもしろい解答が書けないかと思い立った私は、ひたすらこのイラストとにらめっこして3つの解答をつくりました。

解答例①
割と模範的な解答。語数も内容も出題者はこのぐらいのものを想定しているのではないかという答案。

解答例②
①に様々な比喩や回りくどい言い方を付け加えた版。非常に冗語的で、気取った言葉遣いもある。

解答例③
イラストの解釈を大胆に変更し、小説風に物語る。気取った言い方や文学的表現の羅列。

フランスの作家、レイモン・クノーの作品に『文体練習』というものがあります。ひとつの出来事を何十もの様々な文体で描くという一風変わった書籍です。海外のあるアマゾンレビューでは、この本は「文学史上最大のジョーク」と評されていました。

今回はそのコンセプトをこの自由英作文のイラストに大胆に当てはめて書いてみました。

先に言っておきますが、テストで使えるライティングの練習にはなりません。これは、ただ、大学入試で楽しみながら遊んでみたというだけの英文です。(時間はめちゃくちゃかかりました・・・。)

 

さあ文体練習だ

① 割と模範的に

最初の解答は、割と常識的な解答です。想定されている語数や内容はこのようなものではないかと思います。

What we are looking for can often be found just looking things in another way.  The couple in this picture is watching a documentary film named “Planet Earth” while there is also beautiful scenery outside their home.  When you forget there is natural beauty around you, you must search for it desperately, wasting your fortune.

エッセイライティングとしては少ない語数ですが、大学入試の自由英作文としては一般的な長さです。東大や阪大の自由英作文もこのぐらいの分量ですね。

内容的には、次のようなことが想定されていると思われます。

  • 外に美しい景色がある
  • DVD の映像は外の光景と同じ
  • すぐそこにあるものに気づかないものだ

イラストを描写して、教訓や一般論につなげていくような解答ができたら合格点なのかなと思います。多くの予備校の解答例もそのような内容になっています。

 

② 少し気取った版

模範的な解答だけではおもしろくない。もっといろいろ付け加えて深い解答を書こう。総思い立って出来たのが次の英文です。*の語は注釈をつけています。

We are often unconscious of the fact that what we are looking for is there, in front of us.  As a famous writer once put it, “If you are to hide something precious and wish nobody would ever find it, the best thing you do is to hide it in front of their eyes.”  It is difficult for us to appreciate something too natural like small flowers alongside a street or a crisp breeze in an uncomfortably hot night.  The couple illustrated in this drawing is watching documentary film named Planet Earth, enjoying the picturesque* scenery depicted in it.  They seem relaxed, indulged in the world of the vision conveyed by the media product, while there is bona fide* natural beauty just outside the window.  Like them, we often strive to find even the slightest sign of happiness, sacrificing our precious money we manage to get after days of exhaustion and time we desperately long for.  Although it is easy to forget this fact, happiness does exist.  It can be found anywhere, anytime.  All you have to do to is to keep your eyes open to the world around you.  Accepting happiness we are coveting* is, however, not as simple as picking up a piece of stone on the ground.  From time to time we awkwardly miss the very thing we desire even without realizing it.  If you forget this, you will end up looking at the sun setting on a TV screen.

*picturesque 絵のように美しい
*bona fide 真正の
*covet 渇望する

一気に長くなりました。難しい語もあえて使ってみました。

このバージョンでは少々 pretentious(気取った・格好つけた)表現をあえて入れています。自己陶酔の極みみたいな文もいくつかあります。

「幸福を手にするのは、みちばたの石ころを拾うことほど単純にはいかない」なんてまさにそうです。

大学入試の解答としては想定されていないでしょうが、一方で、問題の指示からは逸脱しないような内容になっています。

私がチェックをお願いしたアメリカ人のコンサルタント先生にはこれがベストだと一応評価してもらいました。personalでemotionalな内容と具体的な出来事が述べられている点が良いとのこと。

もちろん入試問題の解答としてはあまりに長すぎて冗長ですが、入試ではなかったらこのぐらい書いても罪はないでしょう。

いくつか私の好きな文学作品のオマージュもいれています。語数を無視して内容を深めていくというのは文章練習にはとても向いているのではないでしょうか。

 

③ 世界はメタファーで・・・版

最後に挙げるのは、もう、小説風に別の物語を作ってみたバージョンです。

イラストの解釈自体を大胆に転換しています。

Nothing remains the same.  This drawing may illustrate the following situation:

  “At last,” the man said, “the film has been completed.”

  “Glad it ended before the construction starts.” the woman said.

  On the screen, the sun – the same sun they had watched thousands of times – was setting between the mountain ridges. 

  The news came to them a few years before that there would be a large shopping complex in their neighborhood, replacing their familiar woods.  Through the window, they could see the same scenery they had seen countless times since their childhood.  

  It was in the same forest they had chased after each other, looking for curious creatures in wild.  It was in the same lake they had learned the coldness of natural water and experienced their first fear of the detachment from the solid ground. 

  “Everything changes.  No wonder this view will be gone.” the man said.

  “Indeed.  And faster than you may realize.”

  That is why he, as a movie director, decided to make this documentary film, which had been completed a few days before.  The scene from their helpless resistance to the changing world was reproducing the unmistakably same view they could see through the window.

  They had almost no choice but to accept the situation.  All they could do was to hope the change would bring something pleasant.  Their baby who was coming to the world wouldn’t see this view.  He would have his own story, as they had theirs. 

“Let’s hope the new place will be a good one.” the woman said cheerfully.

  It cannot be helped, indeed. 

The sun, its eternal glare crystalized on the TV screen, was sinking deep into their memory.

気取った表現ここに極まる、という感じにできるだけしてみました。村上春樹さんのスタイルを特段意識したわけではありません。

でも一応、私はこの解答例を “The-world-is-filled-with-metaphor version” と呼んでいます。もはや問題の指定などそっちのけで想像力が変な方向に爆発してしまっています。(笑)

解答例以外の解釈はできないか考えた末、思いついたのがこのストーリーでした。この2人はドキュメンタリーを自分たちで作ったのです! 失われゆく景色を永遠にとどめておくために! みたいな。

書くのは楽しかったですが、死ぬほど時間がかかりました。たぶんこれだけで1時間半はかかったはず。

これを読んだ私のコンサルタント先生は、賞賛半分、呆れ半分の “You are crazy.  Show-off.  I can’t write this.” という評価をくれました。Thank you!

 

おわりに

今年の早稲田法学部の入試問題を見たときから、なんかおもしろい題材になりそうだなと思って今回の記事を企画しました。

実際に書いてみると、これがかなり難しい。しかし、おもしろい!

気取った言い回しや比喩的表現、文学的表現を使うなんて、普通の英作文の練習ではまずしません。

あえてそれらを使うよう意識して書いてみると、また英語という言語を別の視点から捉え直すヒントが得られること請け合いです。

大学入試でなくても英語の新たな姿を見つけるためにも、「非模範解答」練習は効果的ではないかと思います。

私がとりわけ文体練習なんてものに興味があるのはジョン・アップダイクという大作家の影響が大きいです。アメリカ20世紀最大の文筆家とも言われるアップダイクの英語にであってから、私の英語観なるものは大きく変わりました。

アップダイクが短編で使っていたcrystalizeという単語を絶対使おうと思って最後のバージョンは書きました。

ひとつの単語が新たな物語を生むことがあるかもしれないので、語学はやめられません。

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