東北大学の入試問題は良い意味で伝統と革新が融合した問題だと思います。今回は、そんな東北大学の2019年入試問題(英語)を振り返ります。
東北大英語の特徴
東北大学の入試問題は、どちらかというと「古き良き」大学入試のスタイルを色濃く残している部類の問題です。
設問数は少なめで、各設問では1つ1つのことばに丁寧に寄りそった解答が求められます。難易度的には国公立大学入試の常識の範囲内といったところです。極端に難しい文法知識や語彙が必要な問題はほぼ出題されません。
近年の入試では少なくなってきた英文和訳・和文英訳も東北大の問題では割と生き残っています。全体の半分ぐらいは和訳・英訳の問題といったところです。これはここ数年の大学入試の中ではかなり「伝統的な」スタイルを守っている方でしょう。
かといって極端に「精読」に特化した問題ではありません。近年の東北大入試では、時間内に8ページほどの長文を読むことが求められます。
問題形式が似ている京大や阪大に比べると、試験時間は100分と少なくなるのに、読むべき英文量は倍以上です。(京大阪大は120分で、長文はせいぜい3~4ページほど。)
その意味で、素早く正確に読みつつ内容をしっかり理解できる、バランスのとれた英語力が必要とされるといえるでしょう。
2019年の問題
最新2019年の問題は、全体として「シンプルになった」という印象です。
大問Ⅰの読解問題は昨年のものは非常に抽象的で読むのに苦労する英文でしたが、今年の問題はかなり読みやすくなっています。(蛇足ですが、テーマ的には阪大の長文問題と似たテーマの英文でした。)
読解問題は問題形式も和訳、説明問題、空欄補充、文整序、要約完成など、よくあるものばかりです。今年は内容一致問題や語彙問題はなくなり、要約を完成させる問題が新登場しました。
英文のパラフレーズを含む要約完成問題は多くの大学で出題されている「流行の」形式だと言えるかもしれません。
会話問題にくっついた自由英作文と、独立した和文英訳があるのも昨年同様でした。ライティング問題は昨年と同じような難易度です。
解答のポイント
以下では実際の問題を振り返りましょう。問題は以下の予備校サイトで確認できます。
大問Ⅰ
最初の問題は長文読解問題です。この問題がいちばん英文が長く、まるまる3ページ分あります。
トピックは「問題解決がいかに行われるか」というものです。problem solvingを扱った問題は今年の阪大入試(外国語学部以外)でも出題されていました。
長い英文ですが、前半は「問題解決の古典的イメージ」と「実際の問題解決のプロセス」が対比になっています。この構造を見抜いてしっかり整理すると問1の説明問題は攻略できるでしょう。
後半は、具体的に問題解決がどのようなシナリオに沿って為されるかが具体的に述べられていきます。和訳問題が1ページに1問ずつ2行程度ありますが、とくに難しい部分はありません。
難しい語彙としては、whim and hunch(思いつきと直感)の意味でしょうか。文章自体のキーワードになっていて繰り返し出てきますが、前半の対比構造を見抜くと意味は何となく推測できるでしょう。
大問Ⅱ
この問題は「子どもと遊びの関係」を論じた長文問題です。
子どもにはなぜ遊びが必要なのかを述べる中で、子どもが遊ぶ機会を奪いつつある現代社会への警鐘をならすという全体構造です。
問1の説明問題は、「何が悲劇的なのか」を考えて「教育のあるべき姿」と「現状」のギャップをまとめます。答えは第1段落中にあります。
後半に2つある和訳問題は、それほど難しい語彙や構文は含んでいません。難関大を受験する高校生で(B)の出だしの倒置構造を見抜けない人はほぼいないでしょう。
eat into, quality timeといった語は文脈を考えて適切な訳語を答えたいところ。
文章全体としては、それほど難しい箇所は見当たりません。
endorse, enlighten, tremendously, resilient, insure, intrude, innateといった単語は東北大受験生ならほとんど意味を知っている(or 文脈から推測できる)ものでしょう。
大問Ⅲ
3つめの長文は昨年同様会話問題です。最近は国公立大学でも会話問題を出題する大学が増えましたね。難関大レベルでも、今年は北大、名古屋大も会話問題を出題しています。
会話問題は大学オリジナルのテキストであることが多いです。今回は会話と言ってもディベートの発言内容といったものなので、1つの台詞がかなり長いです。
テーマは「コミュニケーションテクノロジーは我々をより孤立化させたか」というものです。設問は内容一致と本文の空所を完成させる自由英作文です。
肯定派の意見が述べあれたあとで、反対派の代表として台詞を自由英作文する問題になっています。
テーマ自体はよくあるものなので、特に書きにくいということはないと思います。
しかし、スマホ・SNS・ネット関係がテーマとなっている自由英作文は今年多かったですね。難関大では京大・東北大・北大が類似のトピックを自由英作文に採用しています。
大問Ⅳ
最後は和文英訳です。出典は『思考の整理学』(外山滋比古)でした。
訳出自体は難しくないですが、著者の造語をどこまで直訳するか意訳するかが瞬時には判断しかねるところがあります。
まとめ
東北大学の問題は、入試の「伝統」と「近年の潮流」が良い具合に調和した、バランスのとれた試験だと思います。
今後どのような変化を遂げていくのかは分かりませんが、「守るべきものは守りつつ進化する」という点では、大幅なコンセプトの変化はないでしょう。
常識的な英語をしっかり理解できる「普通の英語力」があれば十分合格点を取ることが出来る問題です。英語に自信がある人は練習問題としてやってみても良いでしょう。
阪大・京大・東大を目指す受験生にも良い訓練になると思います。
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