著者のことばを誠実に汲み取りなさい。阪大の問題はそう語りかけてくるような問題が多いです。上級者でも学ぶことは多い。そんな阪大英語2019を振り返りました。難易度や解答のポイントを考えていきましょう。
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阪大英語の特徴
大阪大学入試の英語は、大学入試の中でも「精読」を重視している試験です。
記述量はかなり多い方ですが、読むべき英文量は3ページほどしかありません。120分の試験で読むべき英語が3~4ページの試験は、京大阪大の入試ぐらいしか世の中にはないと思います。
問題形式も大学入試の伝統に則したものばかりです。全体の半分近くを英文和訳・和文英訳の問題が占めています。そして、それらの問題はどれも記述量がかなり多めです。
近年の入試改革の流れを受けて、大学入試の英語は大きく変わりつつありますが、阪大英語は「昔ながらの姿」をかなり保っている方の入試だと思います。
自由英作文も出題されますが、語数は70語前後のものが1つと、割とコンパクトです。試験時間を考えるとそれほど焦って書かないといけないようなライティングではありません。
出題はほぼ毎年次のような構成に固定されています。
Ⅰ 英文和訳
Ⅱ 長文読解
Ⅲ 自由英作文
Ⅳ 和文英訳
外国語学部以外の問題はだいたいこのような構成です。外国語学部では、②の長文が長くなり、さらに最後にリスニングが追加されます。
見ての通り、本格的な長文読解問題は1題だけです。これも大学入試ではかなりまれな方だと思います。その分、長文の内容は抽象度の高いものが採用されることも多いです。一読ですらすら読めるよりは、深くそれぞれのことばにコミットしながら読んでいくような読解が求められているといえるでしょう。
2019年の問題
2019年の問題も、例年とほとんど変わらない構成でした。難易度も特段変化していません。
大問Ⅰで和訳する英文量は10行程度です。日本語にしてみると分かりますが、かなりの記述量になります。
大問Ⅱの長文読解の素材文は2ページでした。和訳問題、説明問題、語彙問題が中心で、最後に本文のタイトルを選ぶ問題がありました。
客観問題はどれも基本的な語彙や文章理解が求められるので、取り組みやすかったはずです。
自由英作文や和文英訳は「いかにも阪大らしい」という内容でした。
英訳だろうが和訳だろうが、「対比」関係が軸になっている文章が多いです。内容をしっかりくみ取って、時には意訳しつつ自分の持っている英語力・日本語力で解答していくことが必要です。
解答のポイント
以下ではそれぞれの問題について詳しく見ていきましょう。問題と解答・分析は各予備校から出ています。
大問Ⅰ
(A)
「蓄音機の発明とそれがもたらした変化について」の英文。
構文に複雑なところはありませんが、exclusively, predate, how exactlyなどは文脈を考えて適切な訳語を選ぶことが求められているようです。
phonographは「蓄音機」です。英単語として知らなくても、文脈と一般常識から意味を推測したいところ。
「リンカーンのゲティスバーグ演説」という名前を知っていたら有利にはたらきますね。世界史選択者の受験生は得したかもしれません。
(B)
1文目が息の長い英文で日本語にしにくい箇所があります。それ以外は普通ですが、訳語に注意したい語がこちらもいくつかあります。
workouts, suspect that, consume more caloriesといった一見ありふれた単語も文脈にふさわしい適切な訳出が要求されています。
最初の文のthanのあとはwould have been expected~と仮定法になっています。given節内のadditionalや主節中のlost far less weightなどと相まって結構訳しにくい英文に仕上がっています。柔軟な日本語の表現力も必要ですね。
大問Ⅱ
問題解決(problem-solving)に関する英文でした。阪大の英文らしく、すこし抽象度の高い英文ですが、特に読解に難儀するほどのものでもありません。
(1)(3)の語彙問題は基本的な語彙や文脈理解を問うています。全問正解したい。
(2)の和訳も難しいところはほぼありません。
(4)(5)の説明問題は解答する箇所はすぐ特定できると思います。あとはいかにそれをわかりやすく解答にふさわしい形でまとめるかということが問われます。
(5)では、チェスの名人と科学者がどのようにオーバーラップするかを適切な分量でまとめないといけません。答える内容は簡単に思いつくでしょうが、まとめるのがすこし難しいです。
大問Ⅲ
「あきらめることの是非」について、自由英作文。
語数は70語程度と指定されています。東大の自由英作文と語数は同じ程度ですが、ひらめきや発想力が必要とされるような問題ではありません。むしろ、実体験を元に70字程度の語数でまとめる方に苦労するでしょう。
阪大の自由英作文はテーマが広い割に語数は少ないので、書くべきことをしっかりと整理して一貫した文章を書く必要があります。
大問Ⅳ
大問Ⅳは和文英訳です。お隣の京大と並んで、阪大の和文英訳は日本の大学入試の中でも最難関レベルとなっています。
和文をしっかり解釈して、英語らしい的確な表現で著者の考えを伝えるという姿勢が必要になります。
(B)は文学部とその他の学部で問題が変わります。外国語学部は、形式は同じですが、大問Ⅳはすべて別問題になります。
(A)
「死の世界:宇宙」と「生の世界:地球」の対比構造をしっかりと意識して訳出すると、英文として理解しやすいものになると思います。日本語の直訳になくても、while, although, in contrast, on the other hand といった対比を表す語を的確に使うと表現で迷子にならずにすみます。
(Bイ)
文学部受験者用の問題です。直訳だけでは意味がはっきりしない英文になりそうなときは、適宜著者の文意をくみ取って意訳しましょう。
この問題も対比構造があります。
「普通のことばをみんな使う」のに、「どういうわけか個性がある」という枠組みをしっかりと理解することが大切です。
(Bロ)
文学部以外の受験者用の問題です。先の二題よりは直訳的な表現でも文意が伝わりそうな日本語になっています。
「躓く」「当面の」「少しでも興味のある」といった表現は語彙力と言い換える力が問われる箇所かなと思います。
まとめ
阪大の英語で必要とされるのは、記述力、精読力などがよく挙げられます。
特に和文英訳と英文和訳の問題では「筆者の意をしっかりとくみ取ること」が最優先事項です。適切な表現を探して解答を記述するのはその後です。
いきなり下線部の語句に飛びついて直訳しようとすると、文意が不明瞭になったり、著者のポイントが伝わらなかったりします。
これは語学をやる上で、忘れてはならない大切な視点だと思います。他人のことばに敬意を持って寄り添うことができないなら、仮に知識を身につけたところで語学に何の意味があるでしょうか。
阪大の問題からは、常にこの問が発せられているような気がします。その意味で、入試が変わろうが、世の中が変わろうが、阪大入試から学ぶことは尽きません。
世の風潮が変わろうとスタイルを変えないその姿勢には「守らなあかんもんもある」というメッセージがあるのかもしれません。
そういった意味での《精読力・「精」表現力》を鍛えたいなら、『阪大の英語20カ年』は格好の問題集です。
以上、阪大入試の話でした。質問、ご意見、ご感想はコメント欄からどうぞ。