イタリア語・ラテン語

【5分で分かる英語史入門①】ノルマン・コンクエストがもたらしたもの

ことばには、歴史があります。英語だって例外ではありません。かつてグレートブリテン島という北海に浮かぶ小さな島で話さされていた英語が、今や世界でもっとも大きな言語圏を形成しています。

そんな英語の歴史を今回はちょっとだけ、紐解いてみましょう。

英語の変遷と時代区分

英語の歴史を大きく分けると、次のように分けられます。

古英語 450-1100年
中英語 1100-1500年
近代英語 1500年-

各時代の英語はどのような見た目だったのか、例を見てみましょう。

古英語

Hwæt. We Gardena in geardagum, 
þeodcyninga, þrym gefrunon, 
hu ða æþelingas ellen fremedon. 

-Beowulf, 作者未詳
《出典:https://www.poetryfoundation.org/poems/43521/beowulf-old-english-version

この頃の英語は、まったくいまと見た目は違いますね。実は、ドイツ語などのゲルマン語を知っているとちょっとは納得できるような語彙もあります。

中英語

Whan that aprill with his shoures soote 
The droghte of march hath perced to the roote, 
And bathed every veyne in swich licour 
Of which vertu engendred is the flour; 
The Canterbury talesGeoffrey Chaucer

《出典:https://quod.lib.umich.edu/c/cme/CT/1:1.1?rgn=div2;view=fulltext

中世後半になると一気に見た目は現代英語に近づきます。スペルが同じだったり、ちょっとだけ違うという語も多いですね。古英語にあった名詞の格変化はほとんど失われてしまいました。

初期近代英語

What art thou that usurp’st this time of night 
Together with that fair and warlike form 60
In which the majesty of buried Denmark 
Did sometimes march? By heaven I charge thee speak!

-Hamlet, William Shakespeare
《出典:http://www.opensourceshakespeare.org/views/plays/play_view.php?WorkID=hamlet&Scope=entire&pleasewait=1&msg=pl#a1,s1

シェイクスピアの時代まで来ると見た目はほとんど現代英語と変わりません。

現代英語

そしておなじみの現代英語です。

Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they where perfectly normal, thank you very much.  They were the last people you’d expect to be involved in anything strange or mysterious, … 

-Harry Potter and the Philosopher’s Stone, J. K. Rowling, Bloomsbury Childrens Books (2014), p.1

以上が英語のおおまかな歴史区分です。以下では、英語がどのような変遷をたどっっていったのか、みていきましょう。

 

はじめにローマありき

むか~しむかし。と言っても、マンモスが大地をのさばっていた頃よりはずっと最近のこと。

2000年ぐらい前、ヨーロッパにはローマ帝国という大帝国がありましたとさ。

ローマ帝国は強力なシステムと軍事力で、版図を広げ、ついにはヨーロッパのみならず、アジア、アフリカの一部まで支配するようになります。

そんなローマ帝国の公用語は、ラテン語でした。偉大な言語遺産であるラテン語は、起源1世紀のラテン文学黄金時代を経て、長らくヨーロッパ世界の学術・教会分野の公用語となります。

 

古英語とゲルマン人

さて、伏線を張っておいたところで英語の話です。

ブリテン島でアングロサクソン

英語はヨーロッパの北にちょこんと浮かぶ島、グレートブリテン島でその産声を上げます。

はじめ、その島にはケルト人が平和に住んでいました。きっと「ロード・オブ・ザ・リング」のホビット族さながらの穏やかな日々を営んでいたことでしょう。

そんなブリテン島でしたが、強大なローマ帝国はこの島の一部も支配下に入れてしまいます。

この島は、大陸から距離的にも近く、現在のフランスからも北欧からも簡単にアクセスできる場所にあります。そのため、いろんな民族が、この島に押し寄せては支配して…、といったことを繰り返していくわけです。

さて、ローマ帝国も滅びてしまって、やってきたのはゲルマン人。「ゲルマン人の大移動」なんて、世界史で習ったと思います。

ここからが本格的な英語の歴史の幕開けとなります。

ブリテン島に上陸したのは、ゲルマン人の中でもアングル人とサクソン人です。この人たちが「Anglo-Saxon(アングロ=サクソン)」という「英語」の古い呼び方の元になりました。(他にも、ジュート人やフリジア人という民族もいたのですが・・・。まあ、いいや。)

English” は “Anglo” から来ています。フランス語でも「英語」は “anglais” ですね。

一度はローマ帝国の領土となったブリテン島ですが、ゲルマン人の流入によって、ラテン語ではなくゲルマン語が使われるようになりました。ゲルマン語の方がラテン語より素朴でありきたりな日常語を多く含んでいます。日々の事柄を語るには便利だったわけです。

これが、いわゆる、古英語(Old English)と呼ばれる英語です。

 

叙事詩とキリスト教

古英語で書かれた最も古い文献は、『ベオウルフ』(作者不詳)という叙事詩です。これが700年頃の作品と言われています。

(ちなみに日本で最初のかな文学と言われる『竹取物語』は、この少し後で、9~10世紀頃の成立とされています。そう考えると、英語の歴史と日本語の歴史のスパンは似ているような・・・。)

この頃にはキリスト教もブリテン島の住人に浸透していきます。一度はゲルマン語勢力に退けられたラテン語も、教会を通していくつか英語に取り入れました。

これらの単語は、この時期にラテン語から入ってきた。

 

ヴァイキング襲来

それから中世の初期にかけて、ブリテン島にはデンマークからデーン人がやってきたり、スカンジナビアからヴァイキングがやってきたりと、それなりに周辺民族の侵略を受けたり退けたりを繰り返します。

今で言う北欧では、北ゲルマン語が使われていましたが、この時期にいくつか英語にも北国の単語が入ってきています。

英語の語彙は侵略されたり仲良くなったりの繰り返しで、多様になっていきます。ヴァイキングも最初は侵略者でしたが、その後アングロ=サクソンの現地人と密接な交流が生まれていきます。

そのためか、北欧からやってきた語彙は日常語が多いです。代名詞のthey, themなども北欧由来です。こいった文法語が他国から入ってくるという例は一般的に非常に稀なケースです。

skin, skirt, sky…スカンジナビアの風を感じないだろうか。

 

英語の転換

いろいろありましたが、1000年ぐらいまでは、英語はゲルマン語の枠内で、様々な交流をしていたといってもいいかもしれません。

ヴァイキングが使っていた言語も、英語からしたら兄弟と言っても良いような言語です。

そのため、この時期までの英語は、現代のドイツ語やスウェーデン語に見た目上結構近いです。(ドイツ語を知ってたらそれっぽく見える単語も多いです。ちなみに現代語でもドイツ語が分かればスウェーデン語の単語を意味が推測できたりします。)

 

ノルマン人がやってきた

そんなゲルマンの荒々しくも素朴な風貌を保っていた古英語ですが、中世の半ばに大きな転換を迎えます。

1066年のこと、フランスからノルマン人がブリテン島に襲来しました。時のフランス王は、「へースティングズの戦い」でイングランド王ハロルドを破り、英国王として即位します。

世界史では「ノルマン・コンクエスト」(ノルマン人の征服)なんて習う出来事ですが、これが英語の歴史においては大事件だったわけです。それはもう現代における「ドラゴンクエスト」の新作売よりもずっと大きな出来事でした。

 

ノルマンコンクエストの功罪

フランス人がイングランドを支配した結果、大量のフランス語が英語の語彙に流入します。

フランス語から入ってきた語彙は、日常語よりもちょっと高尚な香りのする用語や上品なお言葉が多いです。そうはいっても何せ数が多い。そのため、これ以降、英語の語彙は多くの場面でロマンス語(ラテン語由来の言語の総称)っぽく姿を変えていきます

今では、自由と言えば、ドイツ語ではFreiheitでフランス語ではlibertéなのに、英語ではfreedomlibertyの2つがあります。その辺を歩いている牛はcowと言うのに、鉄板の上にのったらbeefになっちゃいます。

英語の語彙がこんなに多様になってしまったのは、ノルマン・コンクエスト以降、大量のフランス語(その古くはラテン語)の語彙を取り入れてしまったからです。そしてそれらの語彙は、意味を広げたり縮小させたりしながら、微妙なニュアンスの違いを背負って、英語という言語の中で共存しているのです。

 

その影に偉大な叔父の存在あり

ゲルマン語としての英語の兄弟がドイツ語・オランダ語・スウェーデン語etcとしたら、ラテン語ファミリーのフランス語はさしずめ「いとこ」で、その親のラテン語は偉大な「叔父」とでもいったところでしょうか。

英語は、仲良し「いとこ」のフランス語を通して、偉大な「叔父」ラテン語由来の語を大量に取り入れてしまったわけです。

そのため、現代英語はむしろ「見た目上」は、本来兄弟関係にあるドイツ語よりも、フランス語やラテン語に近い言語になってしまいました。

英語母語話者なら、フランス語の単語で意味がわかってしまう単語はかなり多いです。

 

現代語を比べてみよう

以下では、英語と他の言語の現代語を比べてみましょう。みため上、英語がフランス語に似ていることが分かると思います。

冒頭の『ハリーポッターと賢者の石』のドイツ語・フランス語版を英語の対訳と共に載せておきます。太字の語は、その言語を知らなくても意味が推測できるのではないでしょうか。

ドイツ語

Mr und Mrs Dursley im Ligusterweg Nummer 4 waren stolz darauf, ganz und gar normal zu sein, sehr stolz sogar.  Niemand wäre auf die Idee gekommen, sie können sich in eine merkwürdige und geheimnisvolle Geshichte versricken… Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they where perfectly normal, thank you very much.  They were the last people you’d expect to be involved in anything strange or mysterious, …

(Harry Potter und der Stein der Weisen, J. K. Rowling, Klaus Fritz, Pottermore Publishing (2015))

フランス語

Mr et Mrs Dursley ; qui habitaient au 4, Privet Drive ; avaient toujours affirmé avec la plus grande fierté  qu’ils étaient parfaitement normaux, merci pour eux.  Jamais quiconque n’aurait imaginé qu’ils puissent se trouver impliqué dans quoi que ce soit d’étrange ou de mystérieux. Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they where perfectly normal, thank you very much.  They were the last people you’d expect to be involved in anything strange or mysterious, … 

(Harry Potter A L’école Des Sorciers, Gallimard (2017))

こうしてみると、現代英語を知っている人は、フランス語の方が意味が推測できる単語が少し多いと感じるのではないでしょうか。

 

そして歴史は続く

その後はルネサンスがあり、シェイクスピアが登場し、欽定訳聖書がでてきて、印刷技術がうまれ、果てはインターネットの登場により・・・みたいに英語の歴史は続いてきますが、今回はここまで。

続編では英語の発音とスペルが対応しなくなった謎に迫ります。

なぜかというと、英語の歴史を知ると、いままで何気なく見ていた単語がちょっとだけまた「おもしろく」見えてくるからです。

私はどちらかというと文法苦手ですし、人間の歴史も苦手なのですが、英語史の話は好きです。英語史が教えてくれることは、ことばの世界にちょっとだけ豊かな深みを与えてくれること請け合いだからです。

 

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