ギリシャ語・ラテン語

【ラテン語読んでみよう】Ave Maria 歌詞解説 ラテン語の世界に親しもう!

ヨーロッパの古い言語にラテン語というものがあります。古代ローマ帝国の公用語であったその言語は、教会や大学の反映を経て長らくヨーロッパの学術・宗教分野の公用語として使われてきました。

現代のヨーロッパの言語も、英語を始め、ラテン語から何らかの影響を受けたものがほとんどです。特に私たちになじみ深い英語、フランス語、スペイン語、イタリア語などの言語はラテン語の言語遺産をたっぷりと受け継いだ言語です。

ラテン語について、学習メリットや言語の特徴は以前の記事で書きました。今回は、実際にラテン語を読んで見ようということで、有名な “Ave Maria” の歌詞を解説しようと思います。

Ave Maria とは

Ave Mariaとは、キリストの母、マリア様を讃える音楽のタイトルです。

歌詞は伝統的にラテン語で歌われます。教会音楽では、決まった歌詞に、様々な作曲家が自分のメロディーをつけて作曲していきます。だから、様々な作曲家が同じ歌詞で “Ave Maria” という曲を書いているわけです。中にはラテン語ではなく自国の言語でメロディーをつけている作曲家もいて、様々な作品があります。

Ave Mariaと聞いて、一番よく耳にするのは、フランスのグノーという作曲家の作品ではないでしょうか。この曲は、音楽の父バッハの『平均律クラヴィア』という鍵盤作品を伴奏として、グノーがメロディーをつけたものです。

(同じく有名な作品にシューベルトの “Ave Maria” がありますが、こちらはドイツ語で歌詞の内容も少し違っています。)

ヘルマン・プライ(私が好きな歌手です。)の朗らかな演奏でバッハ・グノーのAve Mariaを楽しみながら続きをお読みください。

 

 

歌詞と発音

さて、ラテン語の歌詞は以下のようになっています。

Ave Maria, gratia plena,
おめでとう マリア 恵みに満ちた方

Dominus tecum,
主はあなたとともにある

benedicta tu in mulieribus,
あなたは女性の中で祝福されている

et benedictus fructus ventris tui Jesus
そしておなかの中の子、イエスもまた祝福されている。

Sancta Maria mater Dei,
聖なるマリア 神の母

ora pro nobis peccatoribus,
私たち罪人のためにお祈りください

nunc, et in hora mortis nostrae.
今も、私たちの死のときも

Amen.
アーメン

出典は聖書や教会での祈祷で使われた文言などです。これらが組み合わさって現在演奏される形にまとまりました。

この歌詞は中世にまとまったものですので、古代に使われていたラテン語と少し違うところもあるのですが、ほとんど同じだと思ってもらって構いません。

私たちが普通「ラテン語」といって習うのは、1世紀頃に使われていた「古典ラテン語」です。 “Ave Maria” 歌われるラテン語と「古典ラテン語」の一番違う点は、発音です。

実際に演奏される “Ave Maria” のほとんどは、古典ラテン語式ではなく、「教会イタリア式」といって、ラテン語をイタリア語のように発音して歌われます。

 

歌詞の内容

以下では、具体的に歌詞を見てみましょう。ラテン語をかじった人や、ラテン語は知らないけど興味がある人に向けてできるだけかみ砕いて書いています。

ラテン語を初めて見た人でも、それがどんな言語かイメージできるようにしたつもりです。便宜上、母音の長短を表すため、古典ラテン語では長く読まれる母音の上に横棒をつけています。

Ave Maria…

Ave Maria「おめでとう マリア」

最初のAveは、もともとは動詞の命令形でしたが、この場合は、挨拶の決まり文句です。意味は「おめでとう」とか「こんにちは」みたいな感じです。

Mariaは女性名詞の主格・呼格形です。「マリア様」と呼びかけているわけです。

 

gratiā plēna「恵みで満ちた方」

さて、マリア様がどんな人か語るのは次の単語です。plēnaplēnus(~に満ちて)という形容詞の女性主格(呼格)形です。Mariaについて形容する単語なので、女性形のplēnaで使われます。

さて、このplēnus (女性形plēna) という単語は、「~に満ちて」という意味でした。この単語は、ラテン語の中でも、奪格という形と結びつきます。そして、「~に」の部分にあたるのが、gratiā「恵み」です。

この単語の格変化を見てみましょう。

女性第一変化名詞《gratia》の格変化(単数)

主格 gratia (恵みは) 
属格 gratiae (恵みの) 
与格 gratiae (恵みに) 
対格 gratiam (恵みを) 
奪格 gratiā (恵み) ←ここではこの形

形容詞plēnus奪格の名詞と結びついて、「~に満ちた」という意味を表すわけです。だから、gratiā(奪格名詞)+ plēna (女性主格形容詞)「(マリア様は)恵みに満ちた方」という意味になります。

(格変化のない現代語なら、《filled with 名詞》というように前置詞の力を借りるところですね。)

 

Dominus tecum…

Dominus tēcum「主はあなたと共に」

dominusは男性名詞dominus(主人)の単数主格の形です。大文字になっているのはこれがキリストを指しているからです。

ラテン語の名詞は男性は “-us”で終わり女性は “-a” で終わることが多いです。

tēcumは、前置詞cum(~とともに)と(あなた)が合体した形です。

dominus tēcumで「主(キリスト)はあなたとともにある」という内容です。

 

benedicta tu in mulieribus「あなたは女性たちの中で祝福されています」

benedicta(祝福されて)は-aで終わっているので女性形ですね。Mariaのことを指しています。tuは「あなたは」。

in mulieribusは「女性たちの中で」という意味。mulieribusはmulierという女性名詞の複数奪格の形です。in(~の中で)という前置詞が後ろに奪格をとるという決まりがあるわけです。

 

et benedictus fructus ventris tui Jesus「そしてあなたのおなかの子であるイエスも祝福されています」

etはフランス語と同じで、「~も」という接続詞です。

さて、さっきはbenedictaでしたが、今度はbenedictusとなっていますので、男性のことを表します。ここでは主であるJesusのことです。

形容詞に男性・女性形があることで、主語がなくてもそれが誰を指しているかがわかります。

benedicta=女性形
 →Mariaのこと

benedictus=男性形
 →Jesus(Dominus)のこと

fructusは「果実」です。(英語のfruitと似てますね。)

ventrisは「お腹の」です。男性第三変化名詞venterの単数形は次のように活用します。

主格 venter (腹は)
属格 ventris (腹の)←ここではこれ 
与格 ventrī (腹に)
体格 ventrem (腹を)
奪格 ventre (腹)

ここでは、「あなたの(tui)お腹の果実(であるイエス)」となりたいので、属格形が使われるわけです。

 

Sancta Maria…

Sancta Maria mater Dei「聖なるマリア、神の母」

sanctaは、形容詞sanctus(聖なる)の女性形です。もちろんMariaにかかります。

materは「母親」を表す女性名詞の主格です。Dei(神の)は男性名詞Deus単数属格です。属格は「~の」を表すのでした。

 

ōrā prō nōbis peccatoribus「私たち罪びとのために祈ってください」

最初は、動詞ōrāre(祈る)の命令する形です。マリアに向かって「お祈りください」と願っています。

前置詞prōはここでは「~のために」です。後ろには奪格をとります。

nōbis peccatoribusは「私たち罪びと」です。1人称複数代名詞nosと男性名詞peccatorの複数の活用は以下です。

主格 nos peccatores
  (私たち罪びとは)

属格 nostrī peccatorum
  (私たち罪びとの)

与格 nōbis peccatoribus
  (私たち罪びとに)

対格 nōs peccatorēs
  (私たち罪びとを)

奪格 nōbis peccatoribus
  (私たち罪びと)←ここではこれ

 

nunc et…

nunc, et in horā mortis nōstrae「今も、そして私たちの死の時も」

nuncは副詞で「今も」。

et「そして」。

horaは「時間、時」の意味の女性名詞です。(英語のhourも似ていますね。)

前置詞inは奪格をとるので、in horā と hora が奪格になっています。

in horā+[属格] で「~のときに」です。

その「~の」にあたるのが、mortis nostrae「私たちの死の」です。mortisは女性名詞mors単数属格です。nostraeは「私たちの」を表す形容詞の同じく女性単数属格です。

このように、ラテン語では名詞の格と性が語尾で明示されるので、それが何にかかるかがわかるようになっています。

 

Amen

最後の言葉は、Amenです。ヘブライ語由来の単語で、意味的には「まことに、そうでありますように」といった感じです。教会音楽や祈祷では最後に付け加えられます。

 

おわりに 現代語を見据えて

以上がAve Mariaの歌詞解説でした。

ラテン語がどのような言語か知らなかったという方は、すこしだけイメージがつかめたでしょうか。

名詞は性があって格があります。多くの現代語では失われたこの性質によって、ラテン語では文中の言葉の修飾関係が一目瞭然になります。

そして、ラテン語をマスターすることは、この格変化を覚えて、動詞の活用を覚えることに他なりません。

難しく思えるかもしれませんが、繰り返し書いて覚えて、口頭で唱えて…を繰り返せばかならず身に付きます。

何より、ラテン語は現代語とのつながりも深く、学ぶ価値は大きいです。

歌詞に出てきたラテン語は英語ともつながっています。

たとえば、bendictusは英語のbenediction(祝福)と結びついています。-dictusは「言う」という意味の動詞dicereの過去分詞です。英語のdictionary(辞書)、contradict(矛盾する)なんかもこれと関連しています。

mortis(主格はmors)は、英語のmortalといった形容詞と関連しています。

英検1級でよく出る英単語impeccable(非の打ちどころのない)は、ラテン語のpeccator(罪人)と関連しています。

ラテン語の遺産は、英語をはじめどの言語でも本当に大きいわけです。

最後に、Ave Mariaをもう一つ紹介しておきます。

私が好きなメンデルスゾーン作曲のAve Mariaです。8人の独唱と8声の合唱による壮大な作品です。

 

 

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