イタリア語・ラテン語

【ラテン語教材大全】おすすめの初級・中級文法教材と辞書を一気に紹介します

ラテン語を学ぶという長い道のりの前に立つ方、もしくはその途上の方みなさん。ラテン語の世界を旅する用意は出来ましたか。その道のりは長く険しく、ときに心細いものです。そんな旅路をわずかながらでも明るく照らしてくれるラテン語教材を今回は紹介します。

入門教材、初級文法教材、中級者向け教材、辞書の順番で紹介しています。

親しむ入門編

ラテン語という言語は、学習段階で覚えることがたくさんあります。そのため、いきなり分厚い文法書に手を出すと挫折のものとです。

最初はラテン語という言語の全体像が見えるような手軽な教材からスタートするのが長続きするコツだと思います。

初級文法をざっくりと概観したら、ラテン文法の「どの辺が難しいか(大変か)」みたいなものが何となく見えてきます。その視点があると、本格的な学習へとステップアップしたときにひるまずに進んでいけるはずです。

ニューエキスプレス「ラテン語」

  • 実践しながらラテン語を概観
  • 音声CDつき

おなじみニューエキスプレスにはラテン語版があります。

古典ラテン語がどういう言語か知るには、これが一番よくまとまった最短ルートだと思います。入門用では、白水社の『ラテン語のしくみ』など定番のものもあるのですが、『ニューエキスプレス』の方が簡潔で、実践的です。「ラテン語ってこんな言語です」というのをコンパクトにまとめてくれています。

「ニューエキスプレス」は会話文があって、文法の説明があって、練習問題があります。そのため、ラテン語の音や活用を実際に練習しながら言語の全体像をつかむことが出来るのです。

ほかの新書版の教材では読むだけでなかなか実践とは結びつきにくいところも多いので、1冊目にはおすすめです。

練習問題にはラテン語作文もあって楽しいです。(日本で出ているラテン語教材にはほとんど作文問題などありません。)

さらに、この教材には音声CDがついています。ラテン語の教材でCDつきというものはほとんどないので(日本語の教材では私の知る限りこれが唯一)、学習が進んでからもたまに聴いてみると気分転換になること間違いなし。

 

覚える初級編

初級ラテン語入門

  • 丁寧で手堅い解説
  • 読章(和訳付き)がある
  • 練習問題は解答付き

白水社の『初級ラテン語入門』は、ラテン語入門教材として多くの人に愛されてきました。

初版は50年以上前の本ですが、大切な事項を丁寧にまとめてくれています。練習問題も多く、独学にも使えます。

見た目は古い本ですが、じっくり解説を読んでいくとすこしずつラテン語の理解が深まるはずです。

この本には練習問題だけでなく、「読章」というラテン語文が割と最初の段階からついています。ラテン語を読む喜びを割と最初から味わえるわけです。

初級文法の段階である程度まとまったラテン語文を読むように設定された教材は他にはないので、この工夫はありがたいところです。

読章には訳と、簡単な文法の解説もついています。独学者向けの配慮もありがたいです。これ単体でも、他の教材の補助教材としてもおすすめできます。

 

基本から学ぶラテン語

  • 2色刷で見やすい
  • 最低限の練習問題

次に紹介するのは河島思朗先生の『基礎から学ぶラテン語文法』です。

この本は割と最近出た本なので、現代の学習者を想定したレイアウトになっているのがありがたいとこころです。

ラテン文法の本といえば、古くなった活字でお堅い日本語文で解説されるみたいなものが多かったのですが、本書は違います。二色刷でわかりやすい丁寧な言葉で解説されています

発売されたときは、「ようやくこの読みやすさのラテン語教材が出たか」、と私は嬉しくなったものです。

といっても、やっぱりラテン語です。説明はどうしても他の現代語より多く、活用表もたくさん出てくることだけは覚悟しておいてください。

練習問題も各所に付いており、自分で小テスト出来るようになっています。この練習問題は割と最低限の内容を訊ねているものです。これが出来たからと言っていきなりラテン語文献が読めるわけではありませんが、入門用としてはこのぐらいのハードルのほうがいいです。

もちろん解答・解説もついています。

 

しっかり学ぶ・身につくラテン語

  • 充実の問題量
  • 初心者・独習者にやさしい配慮

数年前のことですが、ペレ出版の「しっかり学ぶ」「しっかり身につく」外国語シリーズにもついにラテン語版が登場しました。

京都北白川で「山の学校」を運営されている山下太郎先生の本です。

この本も、新しい本ですので、割と現代の学習者でも勉強しやすく設計されています。また説明もわかりやすいので、活用を覚えていくことさえやめないなら十分独学でも初級文法を身につけることが出来るでしょう。

まあ、とはいってもラテン語ですので、どうしても説明の日本語量は多くなります。このシリーズの他の言語のものよりも、じっくりと時間をかけて読んでいかないといけないのは確かです。

ラテン語版も他の言語版と同様、「文法と練習問題」と「トレーニングブック」があります。

前者は文法説明:練習問題=8:2ぐらいの割合になっています。後者はそれが逆転すると思ってください。

「文法と練習問題」は文法書で、最低限の練習問題付き。「トレーニングブック」は、最低限の説明、活用表のついた練習問題集だと思ってもらって大丈夫です。

どちらにもラテン語→日本語の訳だけでなく、活用形や文中での特定の形を答える問題などが配置されています。いかにも初心者に優しい問題という感じです。ヒントも多く付いています。原典は実際のラテン語文献から採られているのもモチベーションアップにつながります。

私の欲を言えば、トレーニングブックにはラテン語作文や長めの読解問題を入れて欲しかったですね。でもまあ初心者用であることを考えると仕方ないところかなと思います。

 

Wheelock’s Latin

  • 英語でラテン語を学ぶ
  • コラム満載
  • 見やすいレイアウト

Wheelock’s Latinは英語で書かれたラテン語教材としては定番のものです。手にとってすぐ気づきますが、サイズも大きく分厚いです

そうはいっても中身はラテン語入門から初心者を想定してくれています。ラテン語にまつわる背景知識を知ることが出来るコラム的文章も多いです。

また、ゆったりページを使っているので活用表も割と見やすく、学習もしやすいです。Wheelockのシリーズにはワークブックやリーディングブックなどもあるのですが、とりあえずは、この1冊目で相性を見てみましょう。

練習問題に答えは付いていませんが、出版社に問い合わせれば答えのパスコードを送ってもらうことが出来ます。

英語で書かれた教材ですので、もちろんそれ相応の英語力がないとやっていけません。文法用語などは英語上級者でも知らない単語だと思うので、一度日本語のテキストで学習経験がないと理解しにくいかも知れません。

ただ、もちろんラテン語は、日本語より遙かに英語の方が近い言語です。英語で学ぶと単語の関連や意味の違いなどが見えてくる場合もあります。

いずれにせよ、ラテン語学習をもっと高いレベルまで続けて行くには英語の文法書・注釈書や辞書が読めることは必須です。

 

深める中級編

初級文法の教材を(苦しみながらでも)何とか1周したという方は、さらに先のステップです。そんな学習に使える教材をピックアップしました。

Learn to Read Latin

  • 最強の語学教材

ラテン語の最も優れた教材は何かと聞かれたら、私はこの Learn to Read Latinだと断言します。

この教材は、分厚いテキストと、さらに分厚くて大きいワークブックから成っています。なかなか実物は書店には置いていないと思いますが、とにかくでかいです。(ワークブックはA4版でテキストはB5です。厚さは普通の辞書ぐらいだと思ってください)

このテキストの各章の流れは以下の通りです。

  1. 各章の新出単語を覚える
  2. テキストで活用・文法事項を学習
  3. ワークブックで活用の問題を解く(大量に)
  4. 文法事項に関するラテン語を英訳する(大量に)
  5. 文法事項を使ったラテン語作文をする(大量に)
  6. テキストの読解文(ラテン語作品の原典)を読む(大量に)

この問題集兼テキストの魅力は、なんといってもその問題量の多さです。

この本では、各章の冒頭で新出単語が導入されて、出てきた文法事項を使ってそれを「使える」まで持っていくというコンセプトが全体を貫いています。

これは語学のやり方としては割と基本であるにも関わらず、多くのラテン語教材はこのスタイルを採用していません。「ハードルを下げること」にどちらかというと重点があるか、「読むこと」に重点があります。

ほとんどのラテン語教材は、活用は、各自で覚えなさい、そしてこの意味が分かるようになりなさい、という感じです。しかし、このLearn to Read Latinでは、活用だろうが訳だろうが作文だろうがまさに千本ノックというスタイルで出題してきます。

テキストから「さあ、覚えさせてやるぞ、かかってきなさい」とでも言われているかのようです。覚える気がなくても覚えさせてやる、ぐらいの問題量です。

私の持論ですが、ラテン語に親しむには、ラテン語を使って「書く」という作業はどうしても必要だと思います。現在使われていないから、とか言っている場合ではありません。

このLearn to Read Latinに出会ったのは大学3回生の時でしたが、私はそのスタイルに圧倒されると共に、ある種の感動を覚えました。

「これなら絶対言語は身につく」という自分のスタイルをまさに体現したような教材だったからです。

はっきり言って、上に紹介したすべての教材を足しても、このLearn to Read Latinには及びません。ギリシャ語版のLearn to Read Greek(ラテン語版よりもっと大きい)と並んで、私の知る限り最高、最強の語学教材です。

解答は付いていませんが、こちらも出版社に問い合わせたらPDFで送ってもらえます。(少なくとも私は送ってもらえました。)

 

新ラテン文法

  • 古き良き教材
  • 巻末のまとめは便利

10年ぐらい前に大学でラテン語を習ったという人は、この本をテキストとして使ったという人も多いと思います。私が最初に手にしたラテン語教材はこれでした。

この「新ラテン文法」は、いわゆる漸進的なラテン語教材としてよく使われる定番のものでした。(現在は岩波の『古典ラテン語初歩』(田村利光)か白水社の『標準ラテン語文法』(中山恒夫)の方がよく使われている印象を受けます。)

『新ラテン文法』は、現在は古くなった感も否めないのですが、文法の説明は結構詳しいので今でも参照用にこれを私は使っています。

巻末の活用表や数詞のまとめは古(くさ)いスタイルで並んでいますが、なんだかんだで結構便利です。活用表を参照するとき、私は普段これを使っています。

 

古典ラテン語文典

  • 日本語で書かれた最も詳しい文法書
  • 中上級者向け

この本は、中上級者が文法についてより深い知識を身につけていくのに役立つ教材です。

ある程度ラテン文法の全体像が見えている人が参照用に使うのもいいでしょう。

レファレンス用としても使えますし、漸進的にも使えるように設計されています。ただ、練習問題などはないので独学でこれを読みながらラテン語を学んでいくのはちょっと苦しいかも知れません。

この本は、ラテン語で実際に何らかの作品を読むようになってから、分からない点を参照するのに向いていると思います。少なくとも私はラテン語の購読や演習をしているときは、そのように使っていました。

初級用の文法書ではカバーしきれていないところも詳しく解説してくれているので手元にあると便利です。(値段は張りますが…。)

同じ著者から、練習問題集も出ています。

 

 

辞書

ラテン語の辞書は「定番」みたいなものが案外在りません。(ギリシア語にはLiddle & Scottという定番があるのですが…。)

正直今はスマホアプリでも安くて良いものがあります。しかし、やっぱり腰を据えて学習していくなら紙の辞書は持っておきたいところです。

研究社羅和辞典

  • ほとんど唯一の羅和辞典
  • 語句の説明は最低限

研究社の『羅和辞典』は日本語で書かれたラテン語辞書としてはもっとも広く使われているものです。

というか、気軽に手に入り、収録語も多い羅和辞典はこれぐらいしか選択肢がありません。

この辞書は、私も一応持っているのですが、まあ可もなく不可もないという感じです。定義されている語は日本語の訳語がいくつかのっているだけ、みたいなのがほとんどです。用例もそれほど多くはありません。(皆無ではありませんが。)

私はむしろ、この辞書は巻末の「和羅」索引と、活用表が魅力的だと思います。

後ろにはなけなしの「和羅辞典」が付いているので、「これってラテン語でどう言うんだろう」という時は参考になります。(語数はかなりすくないですが。)

活用表も、特に動詞は詳しくかつ見やすくまとまっていて、けっこう便利です。

 

The New College Latin & English Dictionary

  • 圧倒的に安い
  • 内容もそれなりにしっかり

手頃なラテン語辞典としては、いちばんおすすめは断然この辞書です。

この辞書はペーパーバックですのまあ見た目はチープですが、それなりにしっかりとラテン語の情報を含んでいます。内容もしっかりしているので、中級レベルの購読では十分使えるレベルです。

普段使いには一番良いと思います。そして値段は圧倒的に安いです。大学生は1時間ちょっとバイトしたら買えちゃいます。(そう考えると、いかに他のラテン語教材が高いことか。)

 

Oxford Latin Dictionary

  • 最高峰のラテン語辞書
  • 個人で所有は厳しい

チープなペーパーバックの次は、最高峰のラテン語辞書の紹介です。その名も、Oxford Latin Dictionary, 通称、OLDです。

この辞書はラテン語辞書の最高峰として多くの研究者から愛用されています。値段は見ての通りですので、とても個人で所有するようなものではありません。大学図書館においてあるものを使いましょう。

私はラテン語購読をしていたとき、普段は別の辞書を使っていたのですが、たまにこのOLDを参照して勝手に悦に入ったりしていました。それぐらい「ラテン語を今やってるな~」みたいな自己陶酔感を高めてくれる辞書です。

内容は圧倒的に詳しく、各語がどのように意味を変化させたとか、どの作品でどう使われて・・・みたいなことまで書いているので、読み出したら止まりませんでした・・・。

 

Chambers Murray Latin-English Dictionary

  • 厚いけど軽い
  • 活字が・・・

この辞書は、私が学生時代アマゾンでポチって失敗したやつです・・・。

いや、内容は良いのです。語義の説明は詳しく、用例もたっぷりあります。かなり由緒ある辞書ですので、内容的には申し分ないです。

そして、値段もラテン語辞書としては随分安い方です。英和辞典よりも安いぐらいですね。厚さは『ジーニアス英和辞典』よりも少し厚いぐらいです。その上ペーパーバックなので軽くて持ち運びも楽々。

この辞書は、これだけ見ると、最高のラテン語辞書の一つです。

しかし、重大すぎる欠点があったため、私は普段使いにはしませんでした。

その欠点とは、字が読みにくすぎるという点です。活字はつぶれて、その上文字が絶望的に小さいです。せっかくのいい辞書もこれだけ読みにくかったらやっぱり厳しいですね。購入を考えている方は参考にしてみて下さい。

 

Schule und Studium LATEIN-DEUTSCH

  • 非常に見やすい2色刷
  • 語義・用例・コラムがとても充実
  • ドイツ語が読めないと使えない

最後に紹介するのは、最終的に私が愛用することになったラテン語辞書です。

ドイツのPONSという大手辞書メーカーが出しているラテン語辞典です。この通り、ドイツ語が読めないと使えないというのが日本人からしたら最大の欠点ですね。

しかし、この辞書は私が見てきたラテン語辞書の中でも圧倒的に一番使いやすく内容も充実しています。

まず、その見やすさ。ラテン語辞書としては他に見たことがないのですが、これは2色刷です。重要な見出し語はハイライトされていますし、語義や用例もこれでもかというぐらい挙げてくれています。

所々に文化についてのコラムも入っていて、日本の優れた英和辞典のラテン語版という感じがします。さすが出版大国ドイツの辞書です。そしてその内容が充実している一方で値段は結構安いです。ハードカバーで1000ページあることを考えると、この値段は嬉しすぎます。

古典ラテン語だけでなく全時代のラテン語を網羅しているのもポイントです。

私は、期待半分不安半分といった感情でこの本をネット注文したのですが、届いたときは「求めていた辞書だ!」という気持ちになってもうニヤニヤが止まりませんでした。(笑)

これに限らず、ドイツの辞書や学習教材は本当に質の高いものが多いです。私の考えでは、日本と並んで世界で最も良質な出版物を刊行している国だと思います。これだけでもドイツ語を学習する意義があるものです。

PONS Schule und Studium LATEIN-DEUTSCH

 

 

まとめ

以上、「ローマ法大全」にならって「ラテン語教材大全」という形で、おすすめ教材を紹介しました。

結論から言うと、教材に関しては、私はLearn to Read Latin一択です。これは是非多くの日本人に広まって欲しい教材ですね。

辞書はドイツ語が使えないなら結構悩ましいところです。今はスマホアプリでも良質な羅英辞典はあるので、それらも参考にしてみて下さい。

それでは、これらの教材を手に、みなさまがラテン語の世界を無事に旅をすることを願って、このへんで終わろうと思います。

 

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