ギリシャ語・ラテン語

古典ラテン語と現代イタリア語を比べてみた 大理石から青空へ

現代イタリア語は、ヨーロッパの偉大な古典語であるラテン語から派生した言語です。そのため、この2つの言語は見た目上似ている点も多いです。

言い方を換えれば、イタリア語は、ラテン語の遺産を色濃く残す言語であるともいえます。今回は、そんなラテン語とイタリア語を比べてみようと思います。

古典ラテン語と現代イタリア語

古代ローマ帝国の公用語であったラテン語は、長い歴史の中で次第に姿を変えていきます。

古典ラテン語は学問や教会の世界では長らく公用語であったため、書物の中では比較的オリジナルの姿を保っていました。しかし、庶民が話す言語は次第に変化していきます。

その結果、現代のフランス語、イタリア語、スペイン語などが生まれていきました。

その中でもイタリア語はラテン語の名残をその語彙の中に色濃く残す言語です。

以下で古典ラテン語と現代イタリア語の語彙を比べてみましょう。ラテン語を大文字で示します。

ラテン語 イタリア語 意味
VENIT  viene 彼は来る
FIXARE fissare 固定する
APTUM atto 適した
MANUM mano
NIVE neve
DARE dare 与える
PEDEM piede
BONUM buono 良い
PORCUM porco

この通り、見た目上は、イタリア語の単語がラテン語から派生しているのは一目瞭然です。まったく同じスペルの単語もあります。

同じラテン語由来の言語でも、フランス語はラテン語から音が変わり、それに合わせてスペルも随分変わってしまいました。

一方で、イタリア語は音もスペルもラテン語の香りを存分に残しています。

 

発音しやすいイタリア語

イタリア語はよく「発音しやすい言語」と紹介されます。特に日本人にとって、イタリア語の発音は簡単であると感じる部分が多いです。

イタリア語では多くの単語が日本語同様、母音で終わります。また、日本語にはない二重子音を含む単語は、英語やフランス語などその他の言語に比べると少ないです。

イタリア語の発音について、詳しくは以下の記事を参照ください。

そんな、イタリア語の「発音しやすさ」はどのように生まれていったのでしょうか、ラテン語との比較から見てきましょう。

以下に示すのは音の変化のほんの一例です。大文字はラテン語、小文字はイタリア語を表します。

 

子音の同化

FIXARE(フィクサーレ)「固定する」というラテン語はイタリア語では、fissare(フィッサーレ)となります。[ ks ] という二重子音は [ s ] に同化してしまいました。

こういった変化は多く見られます。

APTUM(アプトゥム)「適した」もイタリア語ではatto(アット)と同化しています。英語(apt)やフランス語(apte)では [ p ] の音を保っているのと対照的です。

日本人的には、英語のaptより、イタリア語のattoの方がやはり発音しやすいのではないでしょうか。イタリア語はカタカナで「アット」と表記しても一応は近い音を表すことができます。一方で英語のaptはカタカナの「アプト(aputo)」とはおよそ違う音ですね。

 

子音脱落

ラテン語では、名詞形容詞は格を示す必要があるために、語末が子音で終わる形も多いです。

特に、-M, -T, -Sという子音で終わる形はラテン語には非常に多く見られるのですが、現代語ではこれらの文字は欠落してしまいました。

その結果、現代イタリア語ではほとんどの単語が母音で終わります

 

子音+L

子音+lはラテン語だけでなく、英語やフランス語にもたくさんありますが、イタリア語ではこの二重子音もしばし「発音しやすく」変化します。

PLANUMpianoになります。ラテン語が「プラ(pl)ーヌム」に対して、イタリア語では「ピアーノ」です。PL-という二重子音はpiという音になります。

 

母音の変化

母音はわりと体系的に変化しました。

古典ラテン語には、母音の長さの違いははっきりと区別されるものでした。たとえば、vĕnit(ヴェニット)(彼は来る)とvēnit(ヴェーニット)(彼は来た)は、スペルは同じですが、母音の長さの違いで意味の違いを表していたわけです。

さて、ローマ帝国が拡大した結果、そのアジアやアフリカの一部へもラテン語は広まっていきました。現地の人たちは、ラテン語の母音の長短を区別することができませんでした。

その結果、ラテン語の母音の長短の区別は次第になくなっていき、現代語のスペルができてきます。

ラテン語の音と、現代イタリア語の音の対応は以下です。ラテン語の上の横棒は「長母音」、∨は「短母音」を表します。

※開音節・・・母音で終わる音節。
閉音節・・・子音で終わる音節。

PE-DE(M) は、最初の音節がPE と母音で終わっているので開音節です。開音節のEは[ jε ]の音に変化します。現代語のpiedeはこの変化の結果です。

他にも、BONUM→buonoなどもこの変化の結果です。

 

文法の変化

ラテン語とイタリア語は、語彙面ではこの通り共通点が非常に多いです。私の感覚としては、日本語の古文と現代文よりも近いのではと思うぐらいです。

一方で、文法はラテン語とイタリア語は違う点も多いです。むしろ、イタリア語→ラテン語の順で学ぶ人は、その活用形の複雑さに驚くことになるでしょう。

一方、ラテン語→イタリア語と進む人は名詞の格変化はなくなりますが、その引き替えに冠詞・前置詞・代名詞などの用法や語順で戸惑うことになるでしょう。

ラテン語とイタリア語の文法の違いを見るために、Ave Mariaの歌詞を比べてみましょう。ラテン語について、詳しくは以下の記事で解説しています。

ラテン語 イタリア語
Ave Maria, gratia plena Salve Maria, piena di grazie
Dominus tecum  Il signor è teco
Benedicta tu in mulieribus Tu sei fra le donne benedetta
et benedictus fructus ventris tui, Jesus e benedetto il frutto del tuo seno, Gesù.
Sancta Maria, mater Dei Santa Maria, Madre di Dio,
Ora pro nobis peccatoribus prega per noi peccatori,
nunc et in hora mortis nostrae adesso e nell’ora della nostra morte.
Amen Amen

マリア様のことを「恵みに満ちた(方)」という1行目に注目です。

ラテン語では、GRATIĀ PLĒNAとなっています。PLĒNA(満ちた)という単語が「~に」という補語を取るときに、「奪格」という形をとりますが、GRATIĀはその形です。

一方で、現代語ではpiena di grazieです。現代語には格の変化がなくなったので、diという前置詞の力を借りて形容詞の補語であることを示すわけです。

このように、ラテン語では格変化で表していた内容を、現代語では語順や前置詞など別の要素に担わせて表す傾向があります。

イタリア語で歌われるAve Mariaは、ロマン派のオペラ作曲家、メルカダンテのものが有名です。

 

 

まとめ

イタリア語はラテン語から直接変化したというより、実際には長い時間をかけて徐々に変化していきました。

もちろん、外面的にもいろいろな影響を受けています。

たとえば、サッカーのイタリア代表の愛称はAzzurri「アズーリ」といいますが、これは「青(い)」というイタリア語の男性複数の形です。この単語はアラビア語から来ています。歴史的にもイタリアや特にスペインはアラビア語文化圏の影響も大きかったことがうかがい知れます。

そんなイタリア語ですが、現代イタリア語を習うときは、少しだけでもラテン語の知識があれば、学習は随分はかどりますし、それぞれの言葉も広がります。

英語を習うときに古英語を学習する人は少数派でしょうが、イタリア語を勉強するならラテン語は結構おすすめですよ。

 

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