世界一の国土を持つロシアを旅してみたいと思ったことはあるでしょうか。日本から船で行ける場所もあれば、何時間も飛行機に乗らないと行けない場所もあったりと、実際にロシアに足を踏み入れてみるとその広大なエリアに圧倒されます。
今回は、ロシアを個人旅行した経験から、私が知ったいくつかのことを紹介したいと思います。
気になる治安や、ビザ、言語事情から出会った人々まで、私の経験という観点から述べさせていただきます。ここの情報は2019年12月時点でのものです。最新情報は必ずご自分でご確認ください。
Contents
安全か危険か
ロシアは危ないという認識の方は多いと思います。これは日本人に限らず、欧米、アジアの多くの国で一般的にそのように考えられています。
特に日本、韓国、北米、西ヨーロッパ出身の人はロシアとは恐ろしい国だという印象を持っている人も多い気がします。私が旅している中でもロシアは行きたくないという旅行者に大勢出会いました。
ロシアは実際には安全なのか危険なのか気になる方は多いと思います。
ただ、普通に旅行する分にはそれほど危険ではないと私は思います。
安全と言ったら言い過ぎかもしれませんが、少なくともヨーロッパの基準からすると特別危険ではないレベルといっていいでしょう。
私は3週間ぐらいモスクワやサンクトペテルブルクを中心に観光したのですが、スリ、ぼったくり、ひったくり、置き引き、強盗、殺人など、恐ろしい場面に遭遇することは一度もありませんでした。ワールドカップやオリンピックを通して政府が観光客受け入れの整備を進めてきた成果が出ているということでしょう。
公共の場所での飲酒は禁止されていて、22時以降はお酒の販売すら禁止されているので、町中で酔っ払いに絡まれるということも都市部ではあまりありません。(皆無ではないでしょうが。)
かつてのモスクワは非常に評判が悪かったのは事実でしょうが、現在は普通に旅行する分には他のヨーロッパ諸都市と変わりません。むしろ、特に日本人はパリやローマなどの方がよっぽど犯罪に遭う確率は高いと思います。
日本ほど安全と言うことはありませんが、海外旅行を経験したことがある人からすると極端に恐れる必要はないというのが私の結論です。もちろん、テロも起きるかもしれませんし、犯罪に巻き込まれるかもしれませんが、それは特に欧米の大都市ではどこも変わりません。油断はいけませんが、過度に怖がる必要もないと思います。
地下鉄でも空港でもバスでも、市場でもショッピングモールでも、気をつけるべきことは同じです。
ビザと出入国
日本のパスポートでもビザ必要
日本のパスポートは2020年時点で「世界で最強のパスポート」と認定されています。どいういうことかというと、ビザなしで入国できる国の数が世界で一番多いのが日本のパスポートであるということです。これは客観的な数値上の事実ですので、実際に「最強」なわけです。
そんな日本のパスポートをもってしてもロシアに入国するにはビザを取得しなければなりません。日本人が観光目的でビザを取得する必要がある、本当に数少ない国がロシアなのです。
ツアーや旅行のパッケージとして渡航する場合を除いて、ビザは自分で入手しなければなりません。これは個人で手配することもできますし、代行業者に依頼することもできます。
これがまたしてもロシア旅行を遠ざけている大きな原因にもなっているわけです。
ビザ取得は簡単
さて、結論から言うと、取得自体にはそれほど面倒な手続きはありません。
値段も自分で大使館や領事館に行って取得する場合は2000円ぐらいで済みます。平日に申請に行って取りに行く必要があるので、仕事をしている人はなかなか取得が難しいといったところでしょうか。
代行業者にお願いすると1万円以上費用がかかってきます。私は当時田舎に住んでいて、東京までの交通費を考えると代行業者にお願いする方が安上がりだったので代行業者に依頼しました。
代行業者に依頼すると、パスポートと写真を郵送するだけでしばらくするとビザ付きのパスポートが返ってきます。自分ですることはほとんどないのでかなり簡単です。
ビザは発行までが速ければ速いほど値段が高くなります。私は一番遅くて安いコース(2週間ほど)を選択して費用は1万3千円でした。
空バウチャーのグレーゾーン
ビザ発給のための必要書類もそれほどたいしたものはありません。
ビザ取得のためにはバウチャーという旅程を記した書類が必要です。これは本来は宿泊先のホテルが発行するものですが、多くの個人旅行者は「空バウチャー」という書類を自分で取得しています。
これは、実際には宿泊しないホテルをとりあえず宿泊先にしておいて、日にちだけを決めたバウチャーです。実際のビザには宿泊先などは記されないので、これでビザを取得して、その後自由にホテルや航空券を予約するというスタイルの自由旅行ができます。
ここがロシア旅行のグレーゾーンの一つです。
空バウチャーを使った自由旅行は厳密には正規の手段ではないので、日本で発行されているガイドブックでは「ロシアの自由旅行は不可能」という記述があります。出版社からするとそのように記述するしかないのも容易に想像がつきます。
ただ、実際には多くの旅行者が空バウチャーを取得して自由旅行をしています。空バウチャーで取得したビザでも、有効期間の範囲内なら、いつでも入国して出国ができます。
私は実際の有効期間がはじまって8日後に入国して、有効期間が終わる5日前に出国しましたが、出入国時には一切何も聞かれることすらありませんでした。
ビザは旅程を細かく定めていなくてもこの期間にいるということだけで取得することができ、それで旅行ができるということは事実です。
私は最初のホテルだけ一応聞かれたときのために予約していきましたが、その後のホテルは旅行しながら予約しました。どの街にいつ行くかも旅行しながら決めていくことが普通にできます。
出入国
ロシアの出入国は、あっけなさ過ぎるぐらい簡単でした。
私はウズベキスタンのタシュケントからモスクワのブヌーコヴォ空港へとフライトで入国しました。あまり日本人が使うルートではないので、多少の不安はありましたが、入国はあっけないぐらい簡単でした。ビザの有効期限開始から一週間以上過ぎていて、バウチャーを取得したホテルとは違う場所に宿泊することにしていたのですが、それについては何も聞かれませんでした。
入国時に登録のカードをもらうので、これは必ずパスポートと一緒に保管しておきましょう。これがないと出国ができません。
出国はサンクトペテルブルク発、ヘルシンキ行きのバスで通過したのですが、ここでもパスポートを差し出しただけですぐにスタンプが押され、あっさりと通過しました。
入国前は不安は確かにありましたが、終わってみれば、EU圏やシェンゲンエリアに入国するより遙かに簡単にすべては済みました。
滞在登録
ロシアには滞在登録という制度があります。ロシア語で「レギストラーツィア」です。
中級以上の立派なホテルに宿泊すると、ホテル側が旅行者をネット上で何やら登録して、その証拠として滞在登録証をもらうことになると思います。
これは出国や滞在中に提示を求められるなんて聞いたこともあるのですが、実際にはほとんど形骸化しているシステムです。心配な方や万全を期して出国したい方は取得しておくと安全ですが、そうでもない人はそれほど気にしないといけないわけではありません。
実際には同じ都市に7日以上滞在する場合を除いて滞在登録は不要というのが現地での通説となっていて、安ホテルやゲストハウスではほとんどの場合滞在登録をしてくれません。この7日以上というのもよく分からないのですが、一応私は一つの都市に7日以上連続で宿泊はしないようにしました。(ただ、仮にしていたとしても誰も分からないのでは…とは思ったのですが。)
滞在登録は、頼んだら有料(500円ぐらい)でやってくれるところもありますが、普通に出国する分には滞在登録証を求められることもないので別にやらなくてもよかったなと言うのが私の結論です。
実際に、私は8つのホステルに宿泊しましたが、向こうから滞在登録証を渡してくれたのは2つだけでした。それでまったく問題はありませんでした。もらった滞在登録証も誰かに見せる機会などありませんでした。
まあでも、予想できないトラブルに出国時に巻き込まれることもあるかもしれないので、できるだけ滞在登録はしておくと安全だというのは事実です。
言語事情
ロシア語
ロシアの母国語は当然ロシア語です。人々はロシア語を話します。ポストは青で、空は灰色で、人々が話すのはロシア語です。
イギリス人やアメリカ人の英語が非ネイティブの英語より理解するのが難しいということがあるのと同様、ロシア人のロシア語はカザフ人やウクライナ人のロシア語より難しいという印象を受けます。
ロシアは非常に大きい割にはどこでも人々は割と統一感のあるロシア語を話します。カザフスタンだろうが、モスクワだろうが、ウクライナのキエフだろうが人々が話すロシア語にそれほどの地域差はありません。
基本的なロシア語が分かるだけでロシアはかなり面白く旅ができるのは事実です。旅行に行かれる際は、せめてキリル文字の読み方だけでも覚えていくとずいぶん町中から情報をキャッチできると思います。
英語
多くの旅行者はロシア語を話さないため、英語に頼ることになります。
そして、残念ながらロシアでは英語がそれほど通じません。
場所や対応するスタッフによって差はありますが、全体的な印象として、私が今まで訪れた国の中でも一番英語が通じない部類であるのは事実です。
鉄道やバスの窓口でチケットを買うときに、窓口のスタッフ(大体強面のおばちゃん)が英語を理解してくれる可能性は極めて低いです。ほとんどのスタッフはにらみつけるような顔でロシア語を永遠に繰り返します。(これ、人によっては普通に怖いです。)
寝台列車や高速鉄道はアプリから簡単に予約できるのでいいのですが、長距離バスや近郊列車は窓口でチケットを買わないといけません。これはロシア語なしで突破するにはなかなか度胸がいります。これも経験と思って戦うしかありません。
ホテルでも英語は残念ながらほとんど通じませんでした。これは予想以上に通じませんでした。私は安宿しか泊まっていませんが、全体のうち、すごく基本的な英語(today, big, one, two など)を理解するスタッフは全体の3割程度といったところでしょうか。そもそもロシアのホテルやゲストハウスにはほぼロシア人しかいないので、スタッフも英語が全くできないということは珍しくありません。
私が訪れたことのある国の中で、ホテルでこれだけ英語が通じなかった国はロシアと中国ぐらいです。中央アジアや東南アジアでも英語は多くのホテルやゲストハウスで通じるので、これは以外でした。
滞在した中で一番英語が通じた街は、サンクトペテルブルクです。ヨーロッパからも近く、ロシア最大の観光地であるのでこれも納得です。カフェやレストランに英語を理解するスタッフは少なくとも1人ぐらいはいる印象です。
首都のモスクワは大都市ですが、あらゆる場所で英語は予想以上に通じませんでした。これはもう諦めるしかありません。ウズベキスタンの観光都市の方がよっぽど通じます。
ロシアの人々
ロシア人は愛想がないなんてことを耳にすることも多いです。
決して彼らは不親切であるとか、優しさがないというわけではありません。ただ、実際に愛想はありません。もう、これはびっくりするぐらいありません。
空港だろうが駅だろうがスーパーだろうが、丁寧な接客に慣れている日本人からすると信じられないぐらいふてぶてしい態度の人々が多いです。
たとえば、ドイツなんかもよく愛想がないと言われますが、ロシアはもうその比じゃないぐらいです。駅で係員と話しながら、私は何度「いや、もうそれは睨んでるやん」と心の中でツッコんだことか。それでいて英語を一切受け付けず、こちらが理解するまで同じロシア語を高速の呪文のように繰り返す係員に、気の小さい私は純粋な恐怖を感じました。
繰り返しますが、彼らが不親切とか、客に憎しみを抱いているというわけではありません。ただただ、愛想がないのです。friendshipはあるのでしょうが、friendlinessという概念がないのではないかと私は真剣に疑ったぐらいです。
ロシアで喫茶店に入って店員が氷のように冷たい視線であなたをにらみつけてきても、心を強く持ってその視線を受け止めてあげてください。
なんなら日本語でツッコんでください。
「いや、それはもうキレてるやん」
サンクトペテルブルクからヘルシンキにたどり着いたとき、私はそこにいる店員がみんな天使に見えました。北欧万歳。物価以外。
ロシアの物価
物価の話が出たので、ロシアの物価について簡単に述べておきます。
ロシアの物価は一概には言えませんが、日本とも西ヨーロッパともものによっては大きく違うという印象です。
旅行者と関係の大きい各項目の物価は大まかに言って以下のようになります。
外食費 日本と同等か少し高い
交通費 日本の⅓から半額
宿泊費 日本の⅓から半額
外食費
ロシアを旅行する人にとって、外食費は一番抑えるのが難しいところかと思います。
レストランは西ヨーロッパとそれほど大差なく、まともに食事をしようとすると2000円近くかかります。カフェでコーヒーとサンドイッチを頼んでも1000円近くしてくるので、日本人にとっても決して安くはないでしょう。ファストフードも同様です。
スーパーで自炊をしてもそれほど安くはならないというのが私の印象です。ひとり旅ならスタローバヤ(ビュッフェスタイルの大衆食堂)で500円ぐらいの食事をする方が味と手間を考えるとお得な気がします。
スタローバヤはどの街にもだいたいある、ロシアのありがたい食文化です。食べたい商品を指さして注文しましょう。
交通費
交通費は日本の基準からすると随分安く済みます。モスクワ市内のバスや地下鉄は、一回の乗車で70円ほどです。地方都市では50円ぐらいになります。
長距離列車は、ランクによって値段は様々です。高速鉄道はそれなりの値段がしますが、それでも日本の新幹線よりは安いことがほとんどです。
モスクワ-サンクトペテルブルクの高速鉄道(所要4時間)は一番安いチケットで5000円~です。
モスクワ-サンクトペテルブルクの寝台列車(所要7時間)は3000円~になります。ロシアの鉄道は日本人からすると座席も広くそれなりに快適ですので、移動はそれほど苦ではないと思います。
チケットは英語対応のアプリから簡単に予約ができるので、鉄道旅行はずいぶん気楽にできます。アプリで予約して乗車時はパスポートを見せるだけで列車に乗ることができます。窓口でのややこしい会話もありません。
宿泊費
ロシアで日本より安いのはなんといっても宿泊費、交通費です。中級以上のホテルに泊まる場合は日本との差もそれほどないのでしょうが、安宿に泊まる場合や欧米の多くの都市よりも随分安く済みます。
モスクワやサンクトペテルブルクのホステルの相場は、だいたい日本の3分の1ぐらいです。
モスクワでは1000円、サンクトペテルブルクでは700円ぐらいから十分快適なゲストハウスに泊まることができます。特にサンクトペテルブルクは割と快適な安宿がたくさんあって、貧乏旅行者にとっての宿泊事情は世界でもヨーロッパトップクラスです。
総じてロシアの宿泊費は東ヨーロッパの物価の安い都市と比較してもほとんど変わらないぐらい安いです。そしてアジア諸国にありがちな雑な作りの安宿と違って、安い割にはそれなりに暖房、ロッカー、キッチンなどの設備がしっかりしているので宿泊事情は文句なしです。
ただ、仕方のないことですが、あくまで日本人の感覚からするとですが、マナーの悪い客は多いので、ホテル自体はきれいでも場合によっては過ごしにくいことはロシアではよくあります。ここは割り切るしかありません。
共用スペースは汚いことも多いですし、宿泊客のほとんどはロシア人、スタッフに英語は通じないなんてことはよくあることです。
あと、基本的にホステルでの飲酒は禁止されている場合が多いです。
まとめ
以上が私がロシア旅行を通して知った彼の国の事情です。もちろん、あくまで私が勝手に感じた印象ですので、誰にでも当てはまるようなことではないでしょう。
実際には旅をする中でたくさんの親切で優しいロシア人に助けられたので、全てのロシア人が一概にこんな人々だなんて言うつもりもありません。私なりに感じた一定の傾向を紹介したまでです。
ロシアは北海道や鳥取から船で行けるぐらい、実はとても日本から近い国です。ウラジオストクー東京のフライトは、ソウルへのフライトよりも短いぐらいです。一方、サンクトペテルブルクはヘルシンキまですぐそこの北欧に近い場所に位置しています。そう考えるとロシアという国の広大なエリアには改めて驚かされます。
一方でビザ取得のハードルがあったり、言語のハードルがあったりと、ロシアを旅行の第一目的地に挙げる人はあまり多くないというのが現状です。そして、ほとんどの日本人はロシアがどんな場所か人から聞いたり本やネットで読んだ知識を元に、なんとなくイメージを持っているに過ぎません。
その場所がどんな場所か、何より「自分にとって」どんな場所であるかを知るには、実際に自分の目でその世界を見るしか方法はありません。ここではいくつかロシア事情を挙げましたが、そんなものは自分の旅においてあくまで参考程度にしかなりません。
「ロシアって危険」「ロシア語難しい」なんて氷のように冷たく閉ざされた幻想に春の雪解けをもたらすのは、自分が実際に身につけた一つ一つの言葉であり、自分の目で見た一つ一つの風景、人々以外にはありえません。ロシアに限らずですが、対立や不安をあおる報道の何が本当で、何が嘘なのか、その本当の答えは自分で見た世界にしかありません。
このサイトがロシアやロシア語の世界を旅する皆様へのほんのわずかな道標となることを期待して、筆を置くとします。